他者との「共生」を調査地での経験を通じて共に考えていきましょう!

コミュニティ政策学科 跡部千慧助教(労働と家族の社会学、ジェンダー研究)

2023/08/01

教員

学部での教育活動

質的調査を中心に社会調査士という資格を取るための科目を担当しています。コミュニティ政策学科は、社会科学系の学科でありながらも、福祉学科と同様に、臨床を大事にしている学科です。特に、コミュニティに入り込み、そこで見聞きしたことや、自分自身がコミュニティの内部で過ごしたときに感じたことや経験したことを、本や大学の講義で学んだことと結び付けて考え、新しい考え方を見つけ出すことを重視しています。

コミュニティに入り込む前に学んでおきたいことが、数量に還元できないことを調べる「質的(しつてき)調査」といわれる調査技法です。私の授業では、この質的調査の技法を実際に教室の中でたくさん使っていきます。

授業の中では、(1)教員の話を聞く時間、(2)自分で考える時間、(3)4人1組のグループの中で他の受講生に自分の考えを話し、他の受講生の話を聴く時間を取っていきます。グループ討議で話を聴く際には、耳(聴覚)だけでなく、目(視覚)や、他の五感をフル活用して、他者の話の世界を想像し、話に入り込んで話を聴くという調査技法を実践していきます。

このように、質的調査の技法を使って、他の受講生とコミュニケーションを取り、授業の場を【授業に参加する全員が“大切にされている”と実感できる場】にしていくことを私の授業では目指しています。そして、【“まわりから受け入れられ、大切にされている”と実感できる場】こそが、「コミュニティ」であり、立教大学コミュニティ福祉学部の理念である「いのちの尊厳」を感じる場であると私は考えています。

教室内でのグループ討議の様子

私の授業は、教員だけでなく、授業に参加する受講生全員が授業をつくりあげるかたちをとるため、教室ではさまざまなことが起こります。授業のモットーである「『正しさ』より『楽しさ』」を実現するために、まわりを盛り上げようとするときに、いわゆる“男子校ノリ”を発動させて、他の受講生の容姿をイジってしまったり、相手に親近感を抱いてもらうために、見た目で他の受講生の性別を判断し、「~くん」「~ちゃん」と呼び分けてしまったりして、相手を傷つける……といったことです。受講生の容姿をイジることは、ルッキズム(外見重視主義)というハラスメントであり、同様に、性別は男女しかいないという前提のもと、見た目で相手の性別を判断し、「~くん」「~ちゃん」と呼び分けることは、SOGIハラです。そして、こうしたハラスメント行為は、どれも、コミュニティ福祉学部の理念である「いのちの尊厳」を守ることとは反します。

けれども、こうしたハラスメント行為をはたらいた受講生は、ただ単に、まわりを楽しませようとしただけであって、最初から、相手を傷つけようとしているわけではありません。結果的にハラスメントの行為とみなされる行動をしていたとしても、頭ごなしに糾弾するのではなく、本当は何をしたかったのかを聴き合い、お互いに歩み寄る。質的調査の技法を用いながら、実際に、受講生同士でコミュニケーションを取る中で、調査先でのふるまいを受講生は学んでいきます。

フィールドワークの様子

同じコミュニティ政策学科、もしくは、立教大学に所属する学生同士であっても、これだけ多様な価値観があり、自分がよかれと思ってやったことによって、相手を傷つけることがあります。ですので、実際に、コミュニティに入って行き、年齢も育った環境も異なり、共有する前提のない人々と共に時間を過ごす際には、さまざまな行き違いが起こることが予想されます。フィールドに入って行く前に、教室で受講生とともに、質的調査を用いながら、コミュニケーションを取ることを学ぶ中で、フィールドにどのような心構えで入ることが大事なのかを受講生は学んでいくのです。

さらには、こうした質的調査の技法は、日常のコミュニケーションを円滑にすることにもつながってきます。週1回100分の授業だけで身につくものではないので、受講生は、日々の生活の中でも授業で学んだことを実践しながら、学びを深めています。

研究内容

なぜ、私が、こうした教育をするようになったのかを説明するときには、女性学・ジェンダー研究という学問との出会いや、これまで研究してきた小学校の女性教員という研究対象の存在が欠かせません。女性学は、女性解放運動の中から生まれた学問です。そして、女性学は、その出発時点から「日常知と学問知をつなぐ」ことを重視してきました。女性学が誕生する前の学問で「人間」としてとらえられていたものは、暗黙裡に、社会のマジョリティである男性でした。たとえば、かつて「スポーツマンシップ」という言葉がありましたが、この「スポーツマンシップ」という言葉は、人間=男性あることを無意識に前提にしているものであるといえます。暗黙裡に人間=男性や他のマジョリティを前提とし、それ以外の属性を無意識に排除することに敏感になり、多様性を尊重しようとする人々は、「スポーツパーソンシップ」という言葉を用いるようになっています。

女性学が、暗黙裡に人間=男性という前提のもとで、これまでの学問の議論が組み立てられてきたことを提起して以来、そもそも、学問は、さまざまなマジョリティ(例:白人、高学歴、中産階級、健常者、異性愛者など)を暗黙裡に前提にして理論化されてきたことが次々と明らかになってきました。そして、マイノリティの視点から、学問を再構築しようという動きが起きてきています。

女性学が提起したことは、当事者が当事者による当事者のための学びを進めていくことです。この前提に立ったときに、教室の中において、ある一定の権力をもつ教員が、一方的に講義をすることに限界を感じざるを得ませんでした。こうした中で、受講生それぞれが、日常の中で培ってきた知識を持ち合い、互いに自分自身のもつ「日常知」を共有しながら、学問上の議論=「学問知」につなげて考えていくという、現在の授業の形式が徐々に生まれてきました。

そのため、私の授業に、「正解」は存在しません。学問は、特権的な人々のみを前提にし、社会的に抑圧されている人々を排除して理論化されている危険を常に持つからです。だからこそ、これまでの学問の議論を、それぞれの受講生がこれまで生きてきた経験に照らすと、どう考えられるのか、フィールドで見聞きしたことと比べると、どんな違いがあるのかを、それぞれの受講生が考えていくのです。そして、他の受講生と考えを共有する中で、考え方の多様性を知り、その多様な意見の中で、自分自身の考えに近いものをしっかりと選んでいくことを大事にしています。

女性教員の運動の様子

そして、こうした「日常知」と「学問知」をつなぐことは、私が研究対象としてきた小中学校の女性教員が歴史的に実践してきたことでもあります。女性教員たちは、ジェンダー不平等に抑圧されるだけでなく、主体的に自らの労働環境を改善し、キャリアを切り拓いてきた存在であったと私は捉えています。たとえば、戦後、産前産後休暇の保障や育児休業制度の実現を目指す女性教員の運動が展開されたのですが、女性教員は、日常生活で感じる労働や教育の課題や、職場や家庭における納得できないと感じる問題にいかに対処していくかといった「日常知」から運動をスタートさせています。同時に、女性教員たちは、知的な職業集団でもあるため、女性解放論などの学問上の理論を学びました。そして、運動を全国規模に広げ、国を動かすために、全国の女性教員の実態を捉える調査をする中で、再び、日常の経験と学問上の理論をつなぎながら、全国の女性教員の実態に即して学問上の議論が目指す方向性とは異なる運動のスローガンを掲げていったことが、私の研究から明らになっています。

私が、こうした研究を始めるきっかけになったのは、学生時代の体育会での部活動の経験と、学部生のときに、企業の採用試験を受けた経験です。当時は、ワークライフバランスという言葉も、ダイバーシティという概念も、女性活躍推進法もない時代でした。見た目の性別により、生き方が決められている。自分の本当に歩みたい人生を歩めない。そんな絶望感に答えてくれたのが、社会学であり、女性学・ジェンダー研究でした。まさに、私の研究も、「日常知」と「学問知」をつなぐところから始まっているのです。

受験生へのメッセージ

新型コロナウイルス感染症の感染拡大下に、オンライン授業が普及したことにより、私たちは、遠くの大学の先生の講義も受講できるようになりました。一方向の講義は動画を視聴すればいい。そんな時代に、大学に集まり、学ぶことに、どのような意味があるのでしょうか。

少なくとも、コミュニティ政策学科で学ぶ「コミュニティ」に関わる学びは、一方向の講義だけで学べるものではありません。オンラインであれ、対面であれ、授業の中で他の受講生とかかわる中で、学んでいくものだと私は考えています。

そして、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、行き過ぎた経済的な利益の追求から、「いのちの尊厳」に立ち戻って、改めて、社会の在り方を考えることを、私たちに問うてきました。「いのちの尊厳」を起点に、経済的な損得ではない“つながり”のもつ可能性に向き合うのがコミュニティ政策学科です。
加えて、気候変動に対して、あと数年以内に有効な手立てを取らないと手遅れになるといわれています。


人類に残された時間はあと数年です。


この人類にとって未曾有の危機に立ち向かう際に、コミュニティ政策学科の学びは大きな可能性を秘めているといえます。私たちの残された未来が、可能性あふれる未来に変わる日に向かって……コミュニティ政策学科で一緒に学べる日を心待ちにしております。
※インタビュー当時の情報です。

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