2023/12/19 (TUE)

コミュニティ福祉学会「第9回研究実践奨励賞選考報告」

OBJECTIVE.

第9回研究実践奨励賞は以下の2作品に決定いたしました。

授賞作品

1)小勝周氏
「香港における大規模な抗議運動:分断化(2019)と鎮静化(2020)の要因-2次データ分析と「当事者」の語りから見えた香港デモー」(論文)
2)酒井七海氏
「「認められない病い」と共に生きること」(エッセイ)
以下、同賞の趣旨を再確認した上で、今回の選考体制および選考過程、受賞作品の講評などを報告いたします。

研究実践奨励賞の趣旨

研究実践奨励賞は、コミュニティ福祉学会の学会誌である『まなびあい』に掲載された作品のうち、コミュニティ福祉学部の学部生、大学院生、卒業生、修了生などによって執筆された優れた作品を選び、表彰して奨励するものです。また、研究や実践を奨励することで、『まなびあい』を多くの方に読んでいただくとともに、卒業生、修了生と在校生の交流をより一層深めることが目指されております。

選考体制および選考過程

2023年6月20日(火)に開催された選考委員会において、選考対象となる作品(第15号掲載の5作品)に対して、受賞作品の選考がなされました。選考基準、選考体制、選考過程、選考結果の詳細は以下の通りです。

選考基準

選考基準は以下の2点です。第一に、研究論文については、学術論文としての完成度のみを評価基準とするのではなく、多少粗削りな作品であったとしても、潜在的な発展可能性を実感させるものであること。第二に、実践記録・報告やエッセイなどについては、コミュニティ福祉学部での実践的な学びと通底する、社会問題の現場での気付きや問題意識、実践現場ならではのアイデアなど、多くの読者の支持や共感を惹き起こすものであること。

選考体制

選考委員会は、まなびあい運営委員会委員と、選考の公平性を担保するための外部選考委員1名(今年度は、松山真先生)によって構成されました。

選考対象作品と結果

まなびあいの規定に基づき、選考対象となった作品は、『まなびあい』第15号に掲載されている内の5作品です。選考委員会の開催に先立って、読者から提出された推薦書44件の集計結果(得票件数、評価項目、推薦理由コメント)がまとめられ、それらも参考にしながら、選考委員会では、丁寧な議論を行い、各作品を吟味し、受賞作品を決定いたしました。その結果、読者推薦でも圧倒的に評価の高かった小勝氏と酒井氏の2作品が研究実践奨励賞として選ばれました。

受賞作品の講評

1)小勝周氏「香港における大規模な抗議運動:分断化(2019)と鎮静化(2020)の要因-2次データ分析と「当事者」の語りから見えた香港デモー」(論文)
 本作品は、香港の政治的な抑圧状況の中で、抵抗運動を続ける若者たちと、むしろ現在の政治状況に適応することを重視する親世代の人々との間にある価値観の対立や葛藤とそれに伴う分断を、膨大な文献サーベイとヒアリング調査を元に描き出した力作です。強権的な政治が行われている現在の香港で、大きなリスクを伴いながらも社会運動を続け、声を上げ続けることの困難が伝わってくる作品であり、日々のマス・メディアの情報では風化してしまった感のある香港の民主化運動を、私たちも目をそらすのではなく、考え続けなければいけないことを、改めて思い起こさせてくれます。以上のように、論文として高い水準にあるものとして、受賞作品として選ばれました。

2)酒井七海氏「「認められない病い」と共に生きること」(エッセイ)
 本作品は、論文ではなく、エッセイではありますが、優れた当事者研究として読むことのできる作品です。「「認められない病い」と共に生きること」というタイトルですが、何らかの病いというものが、科学としての医学のみならず、政府の制度政策、マス・メディアによって喚起される世論等、社会的に構築されていることを想起させます。そして、本作品では、「病い」が認められず、ないことにされることによって、制度の狭間で生きていかざるを得ない人々の生を、私たちがいかにして寄り添い、支えていけるかという重い問いが読者に投げかけれていると言えるでしょう。また、本作品は、当事者のリアルな体験を元に瑞々しい筆致で書かれたエッセイであり、多くの選考委員が「心に響く」、「共感できる」とコメントされ、同様の意見を表明する推薦書も多数ありました。このようなことから、受賞作品として選ばれました。

まとめ

今回、選考委員会での丁寧な審議により、全員一致で、2名の方に研究実践奨励賞を送ることを決定させていただきました。2名以外の候補者の作品にも、社会問題の現場での実践を通して育まれた鋭い問題意識を提示して頂いたものがあり、今後の活躍が期待されます。小勝周さん、酒井七海さんをはじめ、応募して頂いた皆さんが、今後も、さらに優れた論文やエッセイを執筆され、自らの声を社会に発信していかれることを切に望んでおります。おめでとうございました。

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