教員インタビュー

畠中 亨准教授(社会政策、福祉経済、社会保障)

2023/04/01

OVERVIEW

コミュニティ政策研究をしている畠中 亨准教授にインタビューをしました。

研究内容

経済学の視点で福祉政策や労働問題を考えるのが私の専門領域ですが、現在は主に2つのテーマに取り組んでいます。
一つは、私が大学での卒業研究から続けている公的年金を中心とした日本の社会保障の政策課題に関する研究です。日本の公的年金制度はその歴史の中で極めて複雑な構造をもった制度となりました。世間の注目度も高く、「財政破綻するのではないか?」「若者が損をする制度になっているのではないか?」といった懸念が寄せられています。こうした懸念の中には制度が複雑なために生じる誤解も含まれています。たとえば、国民年金の保険料を未納する人がたくさんいるので、国民年金は破綻するだろうという予想が多くの場面で語られます。しかし、国民年金の保険料納付率が低下すると将来年金を受給できる人が少なくなるので、国民年金の財政状況は良くなります。国民年金の財源は保険料収入だけではないため、このようなことが起こるのです。
社会保障制度の中でも健康保険、介護保険など保険料を財源の一部に持つ社会保険と呼ばれる制度はどれも公的年金と同様に複雑な構造をもっています。一方で、国民の生活に目を向けると、年金が少ないために病院の診療を控えなければならない高齢者、親の介護に疲弊し虐待や無理心中を起こしてしまう家族が少なからずいらっしゃいます。こうした問題は社会保障制度によって支えられるべきです。社会保障の複雑な構造を読み解き、本当に解決すべき政策課題に目を向けていきたいと思っています。
もう一つは、子どもの貧困問題の解決に向けた教育と福祉の連携に関するテーマです。大学院で社会保障を研究する中で貧困問題への関心を深めました。そしてちょうど大学院を修了する頃に子どもの貧困対策法が成立しました。その後も子どもの貧困問題に対する世間の関心が高まり、全国各地で学習支援事業や子ども食堂などの取り組みが広がっています。こうした中で、「受験競争のストレスが原因で不登校となっている生徒も多くいるはずなのに、学習支援事業で勉強を教えることは受験競争を加速させることに繋がるのではないか」という疑問を感じるようになりました。
現在、教育社会学や教育行政学の研究者と共同で、学校やフリースクール、学習支援事業の現場で貧困家庭の子どもや不登校生徒に対してどのような実践が行われ、どのような課題が生じているかを調査研究しています。調査を進める中で、現場で実践にかかわる人々も私と同様の疑問を持ち、葛藤を抱えながら実践を続けていることがわかってきました。実践に携わる人々は、そうした葛藤と向き合いながら、校内フリースクールや校内居場所カフェ、公設民営フリースクールなど常に新しい取り組みを生み出し続けています。
この2つの研究テーマを進めながら、福祉や労働、教育といった社会政策の全体像を改めて経済学の視点で問い直したいと考えています。

主な研究業績

  • 「公的年金を中心とした高齢期ナショナル・ミニマムの検証」社会政策,第10巻(第2号) 82-92,2018年
  • 「第4章 公的年金制度」『新版 基礎から学ぶ社会保障』芝田英昭, 鶴田禎人, 村田隆史編,自治体研究社,2019年
  • 『地方都市から子どもの貧困をなくす—市民・行政の今とこれから』志賀信夫, 畠中亨編,旬報社,2016年 

研究指導

福祉政策、労働政策、教育政策など社会政策をテーマとした領域を中心に指導しています。私の専門は経済学ですが、政策を研究するためには社会学や政治学、教育学など様々な視点で考える必要が出てくるので、経済学にこだわらず幅広い分野の学術書を授業でも取り扱っています。
社会政策のそれぞれの制度は複雑な仕組みを持ち、また現場の実践もきわめて多様です。そうした現実に目を向け知識を広げながら、他方で社会政策はどのような社会を目指していくのかといった価値判断についても一緒に考えていきます。

実践的な取り組み

福祉や教育分野の実践家といくつかの研究会で共に研究を進めています。福祉分野においてはケアマネージャーやケースワーカーなどとともに高齢者施設やしょうがい者施設、児童福祉施設の見学などを積極的に行っています。教育分野では、先進的な取り組みを行っている学校関係者やフリースクール運営者とともに、教育と福祉が連携する現場の見学や実践報告を行っています。

児童福祉の父と呼ばれる石井十次が創設した宮崎県石井記念友愛園

居場所機能を重視した横浜市中川西中学校の図書室

受験生へのメッセージ

大学院で学ぶためには、自分自身がどのような問題関心を持ち、疑問を解き明かすためにどのようなアプローチとるのかが問われます。極端な言い方をすれば、自分自身の「強さ」が試されるのが大学院ではないかと思っています。研究を進める中で不安を抱えたり、自信を失ってしまう院生も少なくありません。こうしたことは社会人として比較的高い年齢で入学された院生でも同様です。私が大学院生の時にもそのような経験がありました。しかし、同じような悩みを抱えた院生と不安を共有したり、指導教授や様々な研究者と関わる中で不安と向き合いながら成長できたと思っています。そのような経験から現在私は、大学の枠を超えて大学院生のステップアップになるような研究会も運営しています。新しい挑戦をしてみたい人はぜひ大学院受験を検討してみてください。

※インタビュー当時の情報です。

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