教員インタビュー

原田 晃樹教授(地方自治、行政学、非営利組織)

2023/04/01

OVERVIEW

コミュニティ政策研究をしている原田 晃樹教授にインタビューをしました。

研究内容

学びのきっかけ

私は学部時代、政治学(国家論)のゼミに所属していました。その中でまちづくりに関心を持つようになり、大学院卒業後、縁あって都市計画の研究所に4年ほど勤務しました。業務は中央省庁や自治体からの受託調査が中心でした。また、研究所の所長や理事長が主宰する自主勉強会に旧国土庁や建設省の官僚が集まり、その事務局もしていました。
小さな組織なので、私もほどなくしていくつか調査を担当するようになったのですが、打ち合わせや勉強会などに参加しても、当初は飛び交う用語の意味すらわからないという有様でした。門前の小僧習わぬ経を読むがごとく、発言者の言葉やちょっとした言い回しを必死でメモし、業務終了後にその意図や背景を調べるという日々が続きました。毎晩終電近くまで職場にいる日々で、泊まり込むこともしばしばでしたが、法律や施策をみるだけではうかがい知れない政策の意図を垣間見たり、官僚のモノの見方・考え方に直に触れたりすることができ、非常に勉強になりました。今はわかりませんが、当時私が接した官僚は、とても勉強熱心で、自治体の現場の実情にも細かく目を配っていました。日本は当時官僚主導の中央集権体制からの脱却が強くうたわれており、私もそうあるべきだと信じ切っていましたが、実際に官僚の仕事に触れてみて、そうしたステレオタイプの言説に強い違和感を覚えた記憶があります。
その後4年ほど勤めた自治体の研究所では、地方分権一括法制定に伴う自治体の事務事業の見直し、中核市・特例市移行調査、広域連合制度や市町村合併の調査などに関わりました。折しも地方分権改革、規制緩和、社会福祉基礎構造改革などが進行し、国や地方を取りまく法制度が大きく変わりつつある時期でした。また、NPOの法制化が議論されており、それに関連した調査や具体的な施策化の現場に関わる機会を得ました。社会の仕組みが大きく変わりつつあった時期に中央官庁と自治体それぞれの立場から現場に従事することができたことは、今から振り返ると幸運だったといえるかもしれません。同じ事象でも捉える側の立ち位置や時代によって映し出される像は異なることを実感しました。

研究テーマ

私の専門は地方自治・行政学ですが、こうした研究遍歴から、具体的な調査研究の対象は多岐にわたります。むしろ、これまでの経験から、あえて分野を限定せずに調査してきたという面もありました。強いていえば、私の研究テーマは必ずしも政府組織だけに焦点が当たっていないということが、特徴といえば特徴かもしれません。私が駆け出しの社会人だった90年代は、日本だけでなく世界の潮流として政府のあり方が問われた時期でした。それは、直接的には財政難に直面した政府の負担軽減に端を発していたわけですが、他方で、多様な主体によって地域・社会を支える仕組み作りを模索していた時期であったと思います。日本では、こうした流れによって自治体を取り巻く環境は大きく変化し、大規模な市町村合併もあいまって、自治の基層単位としてのコミュニティやサービス供給主体としての非営利セクターに関心が集まるようになりました。おぼろげながら、当時調査に関わりながら、世の中が大きく変わりつつあるかもしれないという感覚を持ちました。
そうした体験から、やがて、自治体はどう変わっていくのか、また、コミュニティや非営利セクターの活動と自治体の活動はどのように関わりあうようになるのかといったことに関心を持つようになりました。実際、NPO法が制定された頃から、調査の対象が、自治体そのものからコミュニティや非営利組織を含めたものに広がっていきました。
現時点では、大きく2つのテーマ、4つの小テーマに区分できるように思います。地方自治を基盤においていますが、その対象はNPO・社会的企業やコミュニティ組織なども射程に入れており、どちらかというと両者の接合点が、地域のガバナンスにとって重要だという考えから、最近では地域運営組織・農村女性起業のようなコミュニティの活動や公共調達や契約の評価のあり方についても調査しています。

研究指導

大学院科目では「コミュニティ政策研究」を担当し、地方自治に関する内容で講義しています。そして、以上のような私の関心から、「パートナーシップを支える仕組み」というテーマを設け、地域における多様なアクターとの相互関係を射程に入れた内容にしています。ただ、実際には、例年受講生の関心や研究テーマを踏まえて具体的な授業内容を決めています。たとえば、現役の自治体職員や自治体政策に関心がある受講生が中心の年は、自治体の委託や指定管理などを切り口として、自治体から見た官民関係について考えるようにしました。NPOに関心がある学生が中心の年には、NPOに関する理論や歴史関連の文献を取り上げたこともあります。大学院の講義科目は少人数のため、受講生と相談しながら講義のテーマを決めています。そのため、ご自身の問題関心がどこにあるのかを明確にしていただくことが重要になってきます。
院生指導については、地方自治全般を対象にしており、必ずしも私の研究テーマと合致する必要はありませんが、コミュニティ・NPO等や自治体の組織・活動、あるいは両者の協働をめぐって実証的に考察したいという方を歓迎します。

実践的な取組

地方自治は、地域やアクターの事例の数だけバリエーションがあると言っても過言ではありません。行政学や地方自治論等の理論的な知見の修得はもちろん重要ですが、現場との往還を意識した現場の理解が欠かせません。そのため、実際に地域に通ったり、自治体の実務をつぶさに調べたり、NPOや社会的企業の運営を海外のそれと比較したりといった取組を都度行っています。
一例を挙げると、滋賀県余呉町(現長浜市)の自治の歴史をつぶさに追いながら、住民と町役場、町役場と県・国の機関との関係などを調査し、それを地方自治の理論枠組みに当てはめて考察しました。その成果は、原田晃樹・金井利之(2010)「看取り責任の自治−滋賀県余呉町の居住移転施策を中心に(上)(下)」『自治総研』378・379号にまとめられています。
企業や自治体からの委託調査としては、自治体の窓口業務における手続とその根拠規定について調べたり、NPOの実態調査等を行ったりしました(表の【研究体制(外部資金)】参照)。また、欧州と日本の社会的企業の比較を行うために、科研費等の調査としてワーカーズ・コレクティブやワーカーズコープなどの事業体の実態調査(団体訪問調査とアンケート調査)を行いました(表の【研究体制(外部資金)】参照)。
最近では、国や自治体の委託契約の実態を把握するために、厚労省、四日市市、鎌倉市、高知市、豊中市等を対象に競争入札や随意契約の実態把握を行いました。厚労省の若者サポステ業務をめぐる契約の問題点については、提言書としてとりまとめ、厚労省本省に提出しました。

学生へのメッセージ

このホームページをご覧になっているのは、理由はともあれ、何かのきっかけで研究に関心を持った方だと思います。地方自治や行政学の分野の知識は、法律や会計などのそれとは違い、得られる専門知識・知見がそのまま実務の世界で使えるわけではありません。それゆえ、自分の将来に向けたキャリアにどう生かせるのかが見えないと考えている方もいるかもしれません。しかし、一つのテーマを深掘りし、ある知見を発見し世に問うという行為は、目先の経済的利得には結びつかないにしても、考える力や調べる力が身につき、長い目でみれば絶対にプラスになります。また、官公庁の中には、大学院卒というキャリアを職歴に考慮してくれるところも増えていますし、文系の分野でも大学院で学ぶことは一般的になりつつあります。一度しかない人生です。後で学んでおけばよかったという悔いを残さない選択をしてもらえれば幸いです。コミュニティ福祉学研究科では、できる限り学生の問題関心に沿って研究をサポートします。
※インタビュー当時の情報です。

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