自分の可能性を広げ強みをいかしましょう。21世紀の社会変容をとらえた福祉のまちづくりを一緒に考えましょう。

福祉学科 西田恵子教授(地域福祉、コミュニティワーク、災害福祉)

2023/08/08

教員

研究内容

現在の研究に至る道程は、振り返ると、学部時代に無意識に培われた価値観に発していると思います。日本社会や国の政策において社会福祉の位置づけや評価は決して積極的、肯定的ではないというのが大勢です。人権を前提として考えれば、社会福祉は社会や国にとって欠かせないものであるのに、なぜ消極的、否定的に受け取られ、扱われることが多いのだろうか。そのような問題意識を徐々に持つようになりました。学部3年次の社会福祉実習は新宿区の福祉事務所で学ばせていただきました。ソーシャルワークをはじめ、公的扶助論、児童福祉論、障害者福祉論、老人福祉論ほか、大学での学びは最新の情報に満ちていたのですが、実践現場で見聞きすることは、大学で得た知識だけでは納得や理解のむずかしいことにあふれていました。4年間の学びでは足りない、仕事に就くには不十分に過ぎる、医師のようにあと2年間は学ぶ必要があるだろう、そのような思いを抱えながら広域の社会福祉協議会に就職しました。仕事を通じて多くの学びを得るとともに、力量の不足を痛感し、その後、働きながら大学院へ通う途を選びました。社会福祉協議会で十分な仕事をするために行った進学でしたが、博士の学位を得て数年後、縁あって大学の教員に転職しました。次代を担う学生とともに社会福祉を学び教えること、自分自身が立場にとらわれず研究課題を設定し、研究対象に臨めることは大きな喜びです。
私は修士課程の時から「福祉情報の非対称性」「地域福祉と情報」「地域福祉情報化」を研究の核に据えてきています。情報は媒体ですから、媒体をどのように使うか、媒体そのものをどうつくるか、媒体をどのように流通させるかが問題になります。つまり、社会福祉の実践と政策のあらゆることがらが研究の対象になります。かつては福祉サービス提供(供給)システムのサブシステムとして福祉情報システムがあると考えていましたが、今ではとらえ方を変えるようになりました。研究は短期で成果を示すものもありますが、長期に取り組むことによって得られる成果もあります。私の研究スタイルはそういう意味では後者に該当します。地域福祉ならではの「参加」「協働」も研究を進めていく際の重要な論点です。概して昨今の「地域福祉ガバナンス」が私の研究の軸だといえるでしょう。
上記を軸に据えながら現在、手がけている主な研究は次のとおりです。

  1. 社会福祉協議会の運営/地域福祉活動計画の策定と進行管理
  2. 地域福祉計画とガバナンス、参加
  3. コミュニティ福祉組織の運営と展開の要件/住民福祉組織、当事者組織、ボランティアグループなど
  4. 危機下の社会福祉の運営と外部環境との関わり/災害と福祉ニーズ及び地域福祉課題、災害と社会福祉の機能、クライシスと社会福祉施設の運営、多重災害のリスクマネジメント
  5. 地域福祉概念の精緻化と応用

学部での教育活動

地域福祉論が専門で授業を担当しています。「地域福祉」は日本独特の概念です。21世紀には日本における社会福祉の進め方に関わる理念として掲げられ、国の福祉政策に援用されています。授業では、人々の生活の場である地域に焦点をあて、福祉ニーズとその充足をめぐる社会環境づくりについて、地域による差異、時代による差異を検証しながら、学びを進めます。社会福祉協議会、社会福祉施設、当事者組織、住民福祉組織、NPO、行政、共同募金などのアクターに事例を求めることが多いです。社会福祉法に定められた地域福祉計画と自主的に策定する住民・民間サイドの地域福祉活動計画の内容と策定方法についても学びます。
ゼミ(演習等)は、地域福祉とコミュニティワーク、コミュニティソーシャルワークを主としています。私の担当するクラスでは、学生自身がフィールドワークを企画し、事前準備としての調べ、現地踏査とインタビュー調査などを行い、検討するプログラムを設定しています。大学近郊はもちろん、少し離れた地域にも学生の希望に沿って出かけます。新型コロナウイルスの時はZoomを活用しました。これまでの訪問例として、新座市バリアフリーマップ、小田原市社会福祉協議会、東京おもちゃ美術館、立川防災館、茨城県北茨城市大津地区、福島県楢葉町地域包括支援センター等があげられます。
学部教育、学部生指導で心がけていることは、ミクロ、メゾ、マクロの視点をそれぞれ備えること、そして適宜、それらをつないで考察することを奨励することです。また折にふれ、現実社会への多元的な関心と実践に対する尊敬の思いをもつことを促しています。学生一人ひとりが自分の個性を大事にしながら、大学での学びの経験を通じて、学術に対して謙虚であるとともに、自身の力量を高めて自信を育んでいくことを見守っています。

大学院での研究指導

大学院は与えられた課題ではなく、自ら設定した課題に取り組む場です。是非、自分の関心や問題意識を大切にし、こだわってほしいと思います。ただし、前期課程でできることには限りがある場合もあります。研究のロードマップをいかに描くことができるか、そしてそれをどのように修正することができるかを随時、問いかけながら指導を行います。後期課程においてはさらに研究者としての力の向上をはかるべく、研究課題の精緻化と研究の枠組み、研究の方法の妥当性をともに検討します。社会福祉の拡大する時代に研究する社会福祉の対象は多様にあります。どのような対象を設定するにしても、対象そのものを起点としながらミクロ・メゾ・マクロの視点を備え、研究課題に応じて論究することを促します。大学院生の時期に自分にとってのバイブルとなる社会福祉研究に関わる理論書を自ら見つけることができるといいと思います。
研究指導の他に担当している科目は地域福祉特論です。現代の地域福祉の実践と政策を概観しながら、その系譜を把握し、さらにその展開の要因や要件について検討します。並行して組織の差異、地域の差異、時間軸の差異について検討します。この過程で適宜、理論書等の精読も行います。授業の後半には受講生の研究テーマを地域福祉の視座に照らしてディスカッションすることによって理解を深めるとともに、地域福祉のガバナンスの今日的課題を抽出します。
過去の指導
  • 修士論文「発達障害児の関係形成への支援とその課題—Z 放課後等デイサービス事業務所の主体性を尊重した職員の支援の専門性に基づく考察—」
  • 博士論文「韓国の農村部高齢者の自殺予防のための地域サポートシステムに関する研究—「マウルコミュニティ」の形成に焦点を当ててー」

実践的な取り組み

「参加」「主体」「協働」とは何か、地域福祉の越境性とはどのようなものかなど、各地で直接、見聞し、自身のフィルターを通して把握と考察を行うことは、実践指向性をもつ社会福祉に欠かせません。国内外で機会を見つけて学生と同道したいと考えています。
山形県高畠町
立教大学及びコミュニティ福祉学部と地域連携を結んでいます。地域福祉計画の策定と進行管理をはじめ、折々に訪問し、情報交換や意見交換を行っています。
福島県楢葉町
東日本大震災による地震、津波、原発の被害を受け、2015年まで全町避難が解けなかった経験をもつ同地の地域包括支援センターを年に数回、訪問し、現況を聴かせていただいています。
アメリカ・フィラデルフィア
戦後の困窮した日本に対する民間救援活動を把握するため、ハヴァフォード大学等へ所蔵されている文書の閲覧やインタビュー調査に行っています。
ドイツ・ブレーメン、ハンブルク
他大学の教授達と研究チームを組み、港のある地域のソーシャルワーカー、福祉施設職員、行政職員、中間支援組織のスタッフ、住民などにインタビュー調査を行っています。

受験生へのメッセージ

学部受験を希望する方へ
国内外ともに私たちの生きていく環境は常にどのような選択と行動をとるのか問いをはらんでいます。世の中のあらゆることが直接、間接にウェルフェア、ウェルビーイングに関わってきます。人と社会に関心のある方はぜひ受験してください。一緒に多くのことを知り、考えていきましょう。
学部卒業後は、一人ひとりの声に耳を傾け、その人らしさが活きる社会や地域づくりに貢献できる人として活躍してほしいと思っています。社会福祉協議会や社会福祉施設、福祉保健医療の専門機関、行政、公益団体、あるいは企業などでボトムアップの立案と先見性を備えたマネジメントができる豊かな専門家になることを期待しています。福祉学科で学んだ方々の活躍の場は非常に幅広く、職業以外に市民生活でも福祉の視点が活きると考えています。

大学院受験を希望する方へ
2000年、日本の社会福祉は大きく変わりました。それから20数年がたちました。現在、新型コロナウイルスが世界を脅かし、戦争が平和を奪っています。私たちの生活や社会は福祉を一層、必要とするようになっています。しかし、福祉の確保を巡る社会状況は困難が目白押しです。これからの社会福祉は確保するだけでなく、これまで以上に大局をとらえながら創っていくことが求められます。社会が社会福祉を求めない選択をする可能性はゼロとはいえません。もちろんそのようなことがあっては絶対にならないというのが社会福祉に携わる者たちの考え方です。狭義の社会福祉はもちろんのこと、広義の社会福祉をどのように社会で位置づけ高度化していくか、大学院という自由の場で、その途を解き明かしていきませんか。
※インタビュー当時の情報です。

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