人が少しでも生きやすい社会をつくるために、学生の皆さんと一緒に考えたいです

コミュニティ政策学科 津富宏特任教授(犯罪学、評価研究)

2024/07/30

教員

研究内容

私の最初の仕事は少年院の教官でした。少年院で働いているうちに、人は何故犯罪や非行をするのだろう、少年院でやっていることは犯罪や非行の防止・減少の役に立っているのだろうかと考え始めました。そんな頃に、アメリカの大学院で学ぶ機会が得られました。研究の意味や意義、自分が悩んだり考えたりしていた物事にも答えがあるということを、大学院の学びの中で実感できました。

私の専門分野は、大きく分けると2つです。
1つは「犯罪学」という分野で、人はなぜ犯罪や非行といった「悪い」ことをするのかということを考える学問です。
もう1つは「評価研究」という分野で、こういうことしたら効果があるのかないのかを明らかにする学問です

少年院の仕事をしていくうえでは、何故犯罪や非行をするのかという原因を理解するだけでなく、どうしたら犯罪や非行をしなくなるのかを理解していないといけません。
そこで、犯罪や非行の防止・減少プロセスの研究に興味・関心が移っていきました。犯罪学ではこのような研究を「離脱研究」と言います。
海外で進められている離脱研究の知見を日本に紹介する中で、より広い意味で、人が変化していくプロセスとは何か、それを応援するためにはどうしたらいいのかを今度は考えるようになりました。

その後、大学で教員として働くようになり、若者全般や生きづらさを感じている人たちが生きやすくなるような環境をどうやって作っていくのかに興味・関心が移っていきました。
今、一番興味・関心があるのは、市民の力でその地域を住みやすくしていく「住民自治」という分野です。
その分野を考えるにあたっての私の根っこは、ノルウェーの犯罪学者、ニルス・クリスティーの「地域の問題は自分たちの問題で誰か専門家に任せるものではない」という言葉に影響を受けているのだと思います。

評価研究に関連して、EBPM(エビデンスに基づく政策形成)の見直しにも興味があります。
EBPMとは、どういう政策が効果的であるか調査し政策に反映させるという、最近注目されている分野です。例えば、就労支援なら、どうしたら就労率が上がるかを明確にして政策をつくります。
しかし、就労支援を受ける本人の変化を評価するだけでなく、環境の側の問題も併せて考える必要があると私は思うのです。
「障害の医療モデルと社会モデル」という言葉を聞いたことがありますか。障害があったときに、本人を変えるのか、環境を変えるのかでアプローチは大きく異なります。「ユニバーサルデザイン」という発想は、環境側を変えるアプローチです。犯罪学では、本人が働くことができたら犯罪をしなくなるということは明らかになっていますが、そのために本人に職業訓練をするのか、犯罪をした人に対する就職差別をなくす等の環境を整えるのかは、全く違うアプローチです。このように、評価研究において、何が変容すべき対象なのかを問い直すということについて取り組んでいきたいと考えています。

学部での教育活動

私のモットーは「地を這うように」考えて行動し、できる限り本当に困っている人の役に立ちたいというものです。
少年院に来た子どもたちの家族は、生活保護を受けている方も多いなど、その結果、行政は信用できないと思っていたり、生きていくために良い悪い抜きにいろいろな工夫をしている人がたくさんいました。彼らとの関わりを通じて、大変な思いをしている人が、日本全体に本当にたくさんいるのだと考えるようになりました。

それから、もう一つ「支配しない・支配されない」ということも大切にしたい考え方です。自分は誰にも、何にも支配されたくありません。自分がされたくないことは人にもしたくありません。大学では、先生と学生という関係性がありますが、授業や研究活動においては、学生の自由度を最大にしようと考えています。何にも縛られていない、見張られていない、人のことを気にしなくていいという環境は、健康にもよいし、そのほうが1人1人のポテンシャルを発揮できます。このことから、相手が誰であっても同じ態度でいたい、自分に素直にいたい、平常心でいたいと思っています。

実践的な取り組み

私が少年院で関わっていた少年たちにとって、仕事に就けるかどうかは人生を決める問題でした。また、いわゆる「ニート」の若者の数は、非行少年の数よりずっと多いです。
そこで、大学教員として赴任した静岡で就労支援の活動を始めました。
「青少年就労支援ネットワーク静岡」という団体で、20年くらい前に仲間と一緒に立ち上げて以来ずっと理事長をしてきました。
静岡県内でボランティア団体として始まり、今も たくさんのボランティアがいて、仕事をうまく探せない・続けられない人たちを応援する活動をしています。
この団体は、時代にも合ったのかもしれませんが、20年の間に、国や自治体から事業を受託し、人も雇うようになり、規模的・資金的にも大きく成長しましたが、大事なのは、今日明日と、日々支援によって誰かが助かっていることだと思っています。今は、顧問として、時々戻って相談に乗ったり、講演のような形で基本的な考え方をお伝えしたりしています。

「静岡学習支援ネットワーク」という団体では、静岡県立大学と静岡大学の学生が中心になって学習支援をしています。10年ほど前に、当時静岡県立大学に在籍していたひとり親家庭の学生が、自主的に立ち上げた団体です。
学生だとどうしてもメンバーの入れ替わりがあるので、私が代表理事をしていますが、学生が中心になって活動しており、基本的に私は活動に口出ししていません。
たまに活動をしている教室に行くと、中高校生と大学生がほのぼのとした雰囲気で勉強や雑談をしていて癒されます。学生たちが、自分たちの感覚で、自分たちの目指す活動をしてきたからこそ、このような雰囲気が生まれているのだろうと思い、彼らを尊敬しています。

その他、困窮学生の支援も行っており、COVID-19の感染拡大が始まったとき、静岡県立大学で食料配付を行ったのですが、コロナ禍以降も生活に困窮している学生がいるということ、奨学金といった従来の制度では、どうにも解決できない状況にある学生がいることがわかってきました。活動の1つとして、食料支援のために、学生が街頭募金をしながら資金を集めています。街頭募金は地域の人に困窮学生の問題を知ってもらうために重要なのですが、実施するのは大変なので、運営資金を安定的に確保できるように「学生助けたいんじゃー」という一般社団法人をつくりました。会員を増やして資金や意見をもらって、困窮学生の状況改善につなげたいと思っています。
最後ですが、宮城県石巻市に、静岡県立大学の卒業生が関わっている困窮世帯の子どもたちの学習支援と生活支援、わかりやすく言うと「居場所支援」をしている団体があって、そこの活動を手伝っています。その団体が大切にしてきたものを尊重しながら、私の静岡での経験も参考にして、より良くしたいと思っています。

受験生へのメッセージ

高校生の皆さんは、いろいろなことに興味を持ち、自分の可能性が広がるような種をいっぱい蒔いてもらったらなって思います。本を読むのもそうだし、推し活してもいいし、 部活も大事だし、興味があれば何でも一生懸命やったらいいと思います。自分の中に種が仕込んであると、それが引き出しになって、大学生活でいろいろなことに繋がっていくと思います。
高校生には、今を大切にしてほしいと思っています。学校の帰りになんか一緒に食べて帰るとか恋バナするとか、後になってみて、そういう一瞬一瞬が掛け値なしに大切な時間だったときっと思うので、そういう時間を大切に過ごして欲しいと思います。
どこの大学に行こうかということも考えると思うんですが、先輩に聞いたり、学校に来たりするのも大事だと思います。お店でも同じですが行ってみると雰囲気がわかります。同時に、どこの大学に行っても過ごし方は自分次第だから、自分らしい自分というのを高校生のときに掴んでおいてもらいたいと思います。

やりたいことは人それぞれなので、やりたいことは、その人が大切なことを実現してもらえばいいなと思います。バリバリ働きたいなって人もいれば、子どもをたくさん育てるお母さんになるぞって人もいるかもしれないし、出家してしまう人もいるかもしれませんが、みんなが、それぞれやりたいことを一生懸命やれたらと思います。
前の大学で働いている時、最初の仕事がうまくいかなくて具合が悪くなったり休んだり辞めたりする人をたくさん見てきました。でも、大事なのは、また元気になって自分にあった暮らしを手に入れていくことです。卒業生同士で、誰かが仕事辞めて家に戻ったらしいとか、調子悪いらしいといったときに、気にかけあっているのを見て、そういう関係性が学生生活を通じてできてたんだなとも思いました。
だから、学生には、困ってるなとか大変そうだなというときに、お互いに声をかけあったりして支え合えるような関係になってほしいと思います。
最後に、人には誰しも良心とか正義感があると思います。社会で生きていくにあたって、それを100%発揮することはできなくても、ささやかな 良心や正義感は大切にして生きていってほしいです。皆さんが世の中を少しでも生きやすくしてくれたら嬉しいと思います。
※インタビュー当時の情報です。

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