働き方や家族のかたちが変わるなかで、安心して暮らせる社会を共に考えましょう
コミュニティ政策学科 濵田 江里子准教授(福祉政治、若者政策)
2024/07/25
教員
研究内容
私の専門分野は政治学で、中でも福祉政治とよばれる福祉国家の再編をめぐる動きを研究しています。博士論文では日本とイギリスの若者の就労支援政策を比較し、現在では就労に限らず、家族や住まいに関する政策も視野に入れながら若者政策の研究を進めています。
20世紀に誕生した福祉国家は、男性稼ぎ主の安定した雇用とそのパートナーで家事や育児、介護を無償で担う女性がいる家族を前提につくられてきました。ですが、ヨーロッパでは1970年代の石油危機以降、日本でも1990年代頃から働き方や家族のあり方に大きな変化が生じています。先進国の主要産業が製造業からサービス業に転換する中で安定した仕事が少なくなり、労働市場の二極化と雇用の不安定化が進みました。同時に家の外に働きに出る女性が増え、共稼ぎ世帯が標準化し、育児や介護といったケアを誰が、どのように担うのかが社会的な課題として浮上しました。学校卒業後に安定した仕事に就けない、不安定な非正規職を転々としキャリア形成ができない、ひとり親である、ケアを必要とする子どもや高齢の家族を抱えながら働くことは、20世紀の福祉国家は想定しておらず、これらは「新しい社会的リスク」と呼ばれます。
20世紀の福祉国家を成り立たせていた前提が崩れる中で、福祉国家はなぜ、どのように変化するのか(あるいはしないのか)、新しい社会的リスクに対する国ごとの違いはいかに説明することができるのか、21世紀の働き方や家族の形に合致した政策を可能にする政治的・行政的な条件を明らかにしたいと思いながらこのテーマに取り組んできました。若者政策に焦点を当てた研究をしてきましたが、問題関心の中心は対人的な支援よりも、個人が直面する生活課題の背景にある社会構造と政策的な解決にあります。
20世紀に誕生した福祉国家は、男性稼ぎ主の安定した雇用とそのパートナーで家事や育児、介護を無償で担う女性がいる家族を前提につくられてきました。ですが、ヨーロッパでは1970年代の石油危機以降、日本でも1990年代頃から働き方や家族のあり方に大きな変化が生じています。先進国の主要産業が製造業からサービス業に転換する中で安定した仕事が少なくなり、労働市場の二極化と雇用の不安定化が進みました。同時に家の外に働きに出る女性が増え、共稼ぎ世帯が標準化し、育児や介護といったケアを誰が、どのように担うのかが社会的な課題として浮上しました。学校卒業後に安定した仕事に就けない、不安定な非正規職を転々としキャリア形成ができない、ひとり親である、ケアを必要とする子どもや高齢の家族を抱えながら働くことは、20世紀の福祉国家は想定しておらず、これらは「新しい社会的リスク」と呼ばれます。
20世紀の福祉国家を成り立たせていた前提が崩れる中で、福祉国家はなぜ、どのように変化するのか(あるいはしないのか)、新しい社会的リスクに対する国ごとの違いはいかに説明することができるのか、21世紀の働き方や家族の形に合致した政策を可能にする政治的・行政的な条件を明らかにしたいと思いながらこのテーマに取り組んできました。若者政策に焦点を当てた研究をしてきましたが、問題関心の中心は対人的な支援よりも、個人が直面する生活課題の背景にある社会構造と政策的な解決にあります。
これまでの研究は大きく分けると、新しい社会的リスクと福祉国家の変容をめぐる理論動向の研究と、そうしたリスクに最も脆弱だとされる若者の実態と支援政策、日本とイギリスを中心とする西ヨーロッパとの国際比較になります。研究をまとめた代表的な本をご紹介します。
まずは2018年に共同研究の成果として出版した『社会への投資——<個人>を支える、<つながり>を築く』です。本書では、福祉国家の変化を社会的投資国家への変化として捉える議論を整理し、世界的な潮流と日本への応用に向けた戦略について検討しました。個人の人的資本への投資だけでなく、人びとのつながりや社会全体へ「投資」と「見返り」がもたらされる必要があることを論じた著作です。こうしたテーマへの関心は海外でも広く共有されており、海外の研究者とも共同研究を行ってきました。
二つ目は2021年に出版した共同研究の成果、『アンダークラス化する若者たち——生活保障をどう立て直すか』です。親の扶養と安定した仕事からの賃金があることを前提した日本の若者の生活保障は隘路に陥っています。若者の多様化に伴う複雑なニーズに対応するためには若者の生活保障を権利として打ち立てる必要があることを論じました。
二つ目は2021年に出版した共同研究の成果、『アンダークラス化する若者たち——生活保障をどう立て直すか』です。親の扶養と安定した仕事からの賃金があることを前提した日本の若者の生活保障は隘路に陥っています。若者の多様化に伴う複雑なニーズに対応するためには若者の生活保障を権利として打ち立てる必要があることを論じました。
学部での教育活動
学部の授業としては、「若者政策」、「福祉政治学」とゼミを担当しています。
「若者政策」では若者が直面する課題と、それらを社会的に解決する方法を検討し、すべての若者が安心して暮らすために不可欠な若者政策のあり方を考えていきます。「福祉政治学」では雇用と福祉を組み合わせて人々の生活を保障する仕組み、すなわち福祉国家の発展・縮減・再編について学びます。日本やヨーロッパの雇用・福祉政策の学習を通じて、資本主義や民主主義といった戦後の政治経済体制が変化するなかで、生活保障の仕組みがいかに変化したのか(あるいはしなかったのか)を比較政治学の視点から分析します。
「若者政策」では若者が直面する課題と、それらを社会的に解決する方法を検討し、すべての若者が安心して暮らすために不可欠な若者政策のあり方を考えていきます。「福祉政治学」では雇用と福祉を組み合わせて人々の生活を保障する仕組み、すなわち福祉国家の発展・縮減・再編について学びます。日本やヨーロッパの雇用・福祉政策の学習を通じて、資本主義や民主主義といった戦後の政治経済体制が変化するなかで、生活保障の仕組みがいかに変化したのか(あるいはしなかったのか)を比較政治学の視点から分析します。
ゼミでの懇親。学期末の振り返りと次のプロジェクトに向けた話し合い。
ゼミでのテーマは、仕事と家族を軸とした生活保障の「しくみ」の理解と、その仕組みを変えるための「しかけ」づくりです。外国の事例も参考にしながら、働き方や仕事、家族にまつわる制度や政策が、誰によって、なぜ、どのようにつくられてきたのか、私たちの「声」はどのようにして政策づくりの場に届けることができるのかについて考えています。政策がつくられる過程には、議員や行政職員、NPO、民間企業、市民団体など多様な主体が関わっています。近年では公共訴訟のように裁判を通じて社会を変えようとする試みもみられます。ゼミでは政策づくりに関わる様々な方をゲストスピーカーとしてお招きしたり、議会や裁判の傍聴、議員との意見交換会や政策提言を通じて、私たちにできる政治参画やアクションプランづくりに取り組んでいます。
学部の教育では、学生が広く深く人間や社会について考え、社会的な責任をもって主体的に行動できるようになってほしいと思いながら授業・ゼミを行なっています。学生時代、大学内には自分らしくいきいきと過ごせる環境が整っていたとしても、実社会は必ずしも常にそうだとは限りません。そのため学生のうちから本をたくさん読んで、様々な人と出会い、社会の仕組みについて学んでほしいと思っています。なぜ、どのような経緯で構造的な差別や不平等の解消が進んだのか、あるいは維持されてきたのか、社会的な問題を打ち破るための先人たちの取り組みについて、日本に限らず世界各国の事例に積極的に目を向けてもらいたいと思っています。
学部の教育では、学生が広く深く人間や社会について考え、社会的な責任をもって主体的に行動できるようになってほしいと思いながら授業・ゼミを行なっています。学生時代、大学内には自分らしくいきいきと過ごせる環境が整っていたとしても、実社会は必ずしも常にそうだとは限りません。そのため学生のうちから本をたくさん読んで、様々な人と出会い、社会の仕組みについて学んでほしいと思っています。なぜ、どのような経緯で構造的な差別や不平等の解消が進んだのか、あるいは維持されてきたのか、社会的な問題を打ち破るための先人たちの取り組みについて、日本に限らず世界各国の事例に積極的に目を向けてもらいたいと思っています。
大学院での研究指導
大学院の授業では、受講生の問題関心を踏まえつつ、福祉国家の形成・縮減・再編に関する文献を古典から最新の研究まで網羅的に読み込んでいきます。毎年必ず英語の文献も取り上げています。英語文献の講読では、逐語訳をつくり一語一句正確に訳していくのではなく、ある程度の分量(20〜30ページ程度)を辞書なしで読みこなしていく(分からない単語は飛ばして前後から意味を推測する)ことを指導しています。最近は福祉国家に関する日本語での優れた研究成果もたくさん刊行されています。ですが、世界の最新の研究知見に触れるためには、英語での研究成果を抑えておく必要があります。そのため英語文献に慣れることも授業の重要な目的の一つに位置付けています。
福祉政治や比較政治学の理論を理解し、自らの研究に応用できるようになることを目指すと同時に、受講生がお互いの研究紹介を通じ研究仲間としての意識が涵養されることを大切にしています。大学院生活において、共に切磋琢磨できる仲間は、時に指導教員より心強い存在だったりします。
院生指導では若者政策に限らず、政治学、比較政治学をベースにした福祉国家の研究であれば指導可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。雇用政策、福祉政策、家族政策の事例研究による国際比較を行いたい方も歓迎します。
福祉政治や比較政治学の理論を理解し、自らの研究に応用できるようになることを目指すと同時に、受講生がお互いの研究紹介を通じ研究仲間としての意識が涵養されることを大切にしています。大学院生活において、共に切磋琢磨できる仲間は、時に指導教員より心強い存在だったりします。
院生指導では若者政策に限らず、政治学、比較政治学をベースにした福祉国家の研究であれば指導可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。雇用政策、福祉政策、家族政策の事例研究による国際比較を行いたい方も歓迎します。
実践的な取り組み
博士課程を修了した後のポスドク研究員時代から、学習支援や地域若者サポートステーションを運営する団体や、地方行政の職員の方々と一緒に研究と調査活動を行ってきました。日本が国として本格的に若者政策を展開する以前から、草の根で不登校児の学習支援やひきこもり状態の若者の就労支援を行なってきた実践者と共に、理論と実践の融合を目指す活動に取り組んできました。
現在は、意思決定の場をより多様にするには議会のメンバー、すなわち議員の多様性が不可欠だという問題意識のもと、女性や若者が政治に対等に参加できる場づくりに関わっています。市民の意見を政策提案や提言に反映させるための取り組みに関する国内外での 調査や催しに参加しています。
現在は、意思決定の場をより多様にするには議会のメンバー、すなわち議員の多様性が不可欠だという問題意識のもと、女性や若者が政治に対等に参加できる場づくりに関わっています。市民の意見を政策提案や提言に反映させるための取り組みに関する国内外での 調査や催しに参加しています。
ソウル市・革新パーク内の青年ハブ(社会的機関)のシェアスペース
イギリス議会の超党派勉強会 “Modernising Employment”の院内集会
受験生へのメッセージ
コミュニティ福祉学部を受験する方へ
コミュニティ政策学科の学びは、他者とかかわりながら、共に生きることができる社会の仕組みを考え、その実現に向けて行動することを中心に据えています。個人の自己責任として乗り越えるにはしんどいことを、みんなの問題として捉えて、仲間と一緒に対応を考える。そうすればもっと早く、もっと楽しく、問題を解決する術にたどりつけます。
社会で壁にぶつかった時にどうすればいいのか分からず立ち止まってしまう、あるいは無抵抗に社会に適応するのではなく、大学での学びを通じて必要があれば自らが率先して社会を変えていく勇気と知恵を身につけてほしいと願っています。
コミュニティ政策学科の学びは、他者とかかわりながら、共に生きることができる社会の仕組みを考え、その実現に向けて行動することを中心に据えています。個人の自己責任として乗り越えるにはしんどいことを、みんなの問題として捉えて、仲間と一緒に対応を考える。そうすればもっと早く、もっと楽しく、問題を解決する術にたどりつけます。
社会で壁にぶつかった時にどうすればいいのか分からず立ち止まってしまう、あるいは無抵抗に社会に適応するのではなく、大学での学びを通じて必要があれば自らが率先して社会を変えていく勇気と知恵を身につけてほしいと願っています。
コミュニティ福祉学研究科を受験する方へ
大学院では自分で立てた問題設定に基づいて、先行研究のレビュー、データや資料の収集と分析、論文の執筆を行う必要があります。このように文章にすると一言ですが、実際のプロセスは試行錯誤の積み重ねです。私自身も初めから今のテーマに取り組むことが見えていたわけではありません。指導教員や他大学の先生方、先輩や研究仲間、実践者の方達との多くの議論やご指導を通じて少しずつ形になっていきました。大学院を修了した後どのような道に進むことになろうと、自分で立てた「問い」に自分なりの「答え」を探す経験はかけがえのないものだと思います。
大学院では自分で立てた問題設定に基づいて、先行研究のレビュー、データや資料の収集と分析、論文の執筆を行う必要があります。このように文章にすると一言ですが、実際のプロセスは試行錯誤の積み重ねです。私自身も初めから今のテーマに取り組むことが見えていたわけではありません。指導教員や他大学の先生方、先輩や研究仲間、実践者の方達との多くの議論やご指導を通じて少しずつ形になっていきました。大学院を修了した後どのような道に進むことになろうと、自分で立てた「問い」に自分なりの「答え」を探す経験はかけがえのないものだと思います。
※インタビュー当時の情報です。