「人と人」が関係することの意味について、考えていきましょう。
コミュニティ政策学科 権安理准教授(公共哲学、社会哲学、公共空間論)
2023/08/04
教員
研究内容
公共デザイン:研究テーマは「公共デザイン(public design)」です。簡単に言えば、家族や友人といった私的(private)な関係とは異なる「公共(publicなつながり)」の可能性を研究・構想することです。
2022年から高校の社会科で「公共」という科目ができましたが、公共は政治的なつながり、国家や自治体が担うものと考えられがちです。ですが私は、公共をもう少しゆるく考えています。「日常とは違うオープンなつながり」でありながら、「社会問題に挑む可能性を持った関係性」であるとみなし、大きく二つの観点から研究しています。一つは「人のつながりのデザイン」、もう一つは「空間や場所のデザイン」です。
例えば、家族は人間の関係を意味する一方で、それが集まる家という場所/建物を必要とします。同様に、公共を人のつながり方のパターンとして研究することができますし、つながる空間のデザインから考えることもできます。例を挙げましょう。公園という場所があって、子どもがブランコで遊んだり、大人がベンチで休んでいたりします。ですがこれだけでは、つまり行政という公的機関がつくった場所に人が来るだけでは、それが公共的な空間になったとは言えません。公園という場所を、各人が私的に利用をしているだけです。他者への配慮や、他者とのつながりが生まれることで、公園は初めて公共的な場となり得ます。そのためにはどんな配慮が必要か、どんな道具や仕掛け、ルールが必要か、リノベーションの余地はあるのか……こんなことを考えるのが公共デザインです。
研究室のHP(立教大学 権ゼミHP:https://www.gon-rikkyo.com/)でも、公共デザインについてわかりやすく説明・紹介しているので、ぜひご覧ください。
2022年から高校の社会科で「公共」という科目ができましたが、公共は政治的なつながり、国家や自治体が担うものと考えられがちです。ですが私は、公共をもう少しゆるく考えています。「日常とは違うオープンなつながり」でありながら、「社会問題に挑む可能性を持った関係性」であるとみなし、大きく二つの観点から研究しています。一つは「人のつながりのデザイン」、もう一つは「空間や場所のデザイン」です。
例えば、家族は人間の関係を意味する一方で、それが集まる家という場所/建物を必要とします。同様に、公共を人のつながり方のパターンとして研究することができますし、つながる空間のデザインから考えることもできます。例を挙げましょう。公園という場所があって、子どもがブランコで遊んだり、大人がベンチで休んでいたりします。ですがこれだけでは、つまり行政という公的機関がつくった場所に人が来るだけでは、それが公共的な空間になったとは言えません。公園という場所を、各人が私的に利用をしているだけです。他者への配慮や、他者とのつながりが生まれることで、公園は初めて公共的な場となり得ます。そのためにはどんな配慮が必要か、どんな道具や仕掛け、ルールが必要か、リノベーションの余地はあるのか……こんなことを考えるのが公共デザインです。
研究室のHP(立教大学 権ゼミHP:https://www.gon-rikkyo.com/)でも、公共デザインについてわかりやすく説明・紹介しているので、ぜひご覧ください。
リノベーションされた公園で開催されるマルシェ
公共・社会哲学:公共デザインのベースになる学問が公共哲学・社会哲学で、「人のつながり方」や「公共の意味」を研究します。哲学は広く知られていますが、公共・社会哲学は知らない人も多いと思います。
皆さんが哲学の内容としてイメージすることは、漠然とした大きなこと、例えば森羅万象の原理を考えるというものかもしれません。あるいは、人生の意義は何かを研究することかもしれません。確かにどちらも哲学のテーマですが、これは文学でも扱われるものでもあり、多くの大学では文学部で哲学を専門的に学ぶことができます。なので哲学は、(文学に代表される)人文科学の学問として位置づけられますが、公共・社会哲学は少し違います。むしろ、社会科学の諸学問(政治学、社会学など)と関係が深い哲学です。詳しく言うと、(例えば共同・闘争・自由といった)政治現象を哲学的に考えるのが公共哲学、社会現象を哲学的に考えるのが社会哲学で、「人と人の関係(公共・社会・政治)」を主な対象としています。
ですがやはり、公共・社会哲学も哲学なので、“文学的哲学”と方法論で共通性があります。「そもそも論」と「規範論」という特徴です。前者は、一般的な哲学のイメージと重なるかもしれません。既存の価値観を前提に思考・研究するのではなく、価値観それ自体も批判的に検討するというものです。例えば私は、戦後日本の公共観の変遷について研究してきましたが、変遷過程を分析するのみならず、それが求められてきた根本的な理由や、公共のそもそもの存在意義についても考えます。なので結局のところ、こういった研究は「公共はどうあるべきなのか」という規範とも結びつくことになります。
皆さんが哲学の内容としてイメージすることは、漠然とした大きなこと、例えば森羅万象の原理を考えるというものかもしれません。あるいは、人生の意義は何かを研究することかもしれません。確かにどちらも哲学のテーマですが、これは文学でも扱われるものでもあり、多くの大学では文学部で哲学を専門的に学ぶことができます。なので哲学は、(文学に代表される)人文科学の学問として位置づけられますが、公共・社会哲学は少し違います。むしろ、社会科学の諸学問(政治学、社会学など)と関係が深い哲学です。詳しく言うと、(例えば共同・闘争・自由といった)政治現象を哲学的に考えるのが公共哲学、社会現象を哲学的に考えるのが社会哲学で、「人と人の関係(公共・社会・政治)」を主な対象としています。
ですがやはり、公共・社会哲学も哲学なので、“文学的哲学”と方法論で共通性があります。「そもそも論」と「規範論」という特徴です。前者は、一般的な哲学のイメージと重なるかもしれません。既存の価値観を前提に思考・研究するのではなく、価値観それ自体も批判的に検討するというものです。例えば私は、戦後日本の公共観の変遷について研究してきましたが、変遷過程を分析するのみならず、それが求められてきた根本的な理由や、公共のそもそもの存在意義についても考えます。なので結局のところ、こういった研究は「公共はどうあるべきなのか」という規範とも結びつくことになります。
作品社より2018年に出版
書籍『公共的なるもの』:公共・社会哲学をベースにして、公共に関する「そもそも論」を展開した成果が、『公共的なるもの——アーレントと戦後日本』という本です。戦後日本の研究蓄積のなかで公共はどう位置づけられてきたのか、なぜ求められてきたのか——歴史過程を丹念に追いながらも、そもそも公共とは?という考察をしています。この本を出版して、公共に対する思想的・歴史的な研究、人のつながり方に関するそもそも論は一区切りついたと思いました。現在では、より具体的・実践的な面から公共デザインを考えていて、それを主に学部の教育活動で生かしています。
学部での教育活動
授業とゼミ:学部では「公共哲学」という授業のほか、「公共空間論」と「シェアライフ論」を担当しています。公共空間論は、既存の資源を活用した空間デザイン(リノベーションによる公共空間の形成)、シェアライフ論は、「人と人が何かを共有することでつながりをつくる」という観点から「これからの公共」を考える授業です。ゼミでは、この3つの授業を合わせた公共デザインをテーマにしていますが、空間デザインとシェアについて、先に紹介した権ゼミHPの説明文を抜粋しておきます。
空間デザイン:「街の空間や(建)物といった資源~公園、廃校、空き家、団地、水辺、街角~を活用して公共空間をつくり、少しずつ街を変えていく。街を変えることで社会の課題に挑み、社会を変容させる。例えば、地域を活性化する廃校活用、子ども食堂となる空き家、自由に使える居場所となった公園がある——空間を作って社会を変える!」
シェア:「シェアと言えばシェアハウスだが、それは単なる共同住宅ではない。『つながりたいけど縛られたくない』(三浦展)というコミュニティを実現する場である。だが、シェアの対象は空間やモノにとどまらないのではなかろうか。例えば独居老人がいる。料理が得意だが、庭の手入れに困っている。他方で粗食の学生がいる。両者が出会わなければ、問題には各人が私的に対応するしかない。だが、つながる仕組みがあったらどうか。学生は庭掃除して、美味しい料理に恵まれる。ご老人はその逆。生活課題をシェアして、人生を分かち合う——シェアのつながりをつくって社会を変える!」
こういった関心から、ゼミ生と一緒に「私の家から、私達の空間へ」「私のlifeから、私たちのlifeへ」というように社会を変えていくための研究と実践をしています。ゼミの活動は、ゼミ生がインスタグラム(https://www.instagram.com/gon_seminar_rikkyo/)で社会に発信しています。
空間デザイン:「街の空間や(建)物といった資源~公園、廃校、空き家、団地、水辺、街角~を活用して公共空間をつくり、少しずつ街を変えていく。街を変えることで社会の課題に挑み、社会を変容させる。例えば、地域を活性化する廃校活用、子ども食堂となる空き家、自由に使える居場所となった公園がある——空間を作って社会を変える!」
シェア:「シェアと言えばシェアハウスだが、それは単なる共同住宅ではない。『つながりたいけど縛られたくない』(三浦展)というコミュニティを実現する場である。だが、シェアの対象は空間やモノにとどまらないのではなかろうか。例えば独居老人がいる。料理が得意だが、庭の手入れに困っている。他方で粗食の学生がいる。両者が出会わなければ、問題には各人が私的に対応するしかない。だが、つながる仕組みがあったらどうか。学生は庭掃除して、美味しい料理に恵まれる。ご老人はその逆。生活課題をシェアして、人生を分かち合う——シェアのつながりをつくって社会を変える!」
こういった関心から、ゼミ生と一緒に「私の家から、私達の空間へ」「私のlifeから、私たちのlifeへ」というように社会を変えていくための研究と実践をしています。ゼミの活動は、ゼミ生がインスタグラム(https://www.instagram.com/gon_seminar_rikkyo/)で社会に発信しています。
大学院での研究指導
授業としては「公共研究特論」を担当していますが、内容は上記の公共デザインについて考えるものです。学生の関心に応じて公共哲学寄りの授業をしたり(サンデル著『これからの「正義」の話をしよう』を輪読したこともあります)、空間デザインやシェアを題材にした授業をすることもあります。研究指導ですが、最近では、地域の伝統的なお祭りを媒介にして地域内外のつながりがどのように形成・継承され得るのかを研究した学生がいました。
実践的な取り組み
公園を考える:ゼミ生と一緒に公園のリノベーションに関わっています。豊島区と協力して小規模公園という資源を、どうしたらより生かすことができるのかを考えたりしてきました。日本には固定遊具や砂場、トイレなどがある小さな公園が無数にありますが、必ずしも有効に利用されているとは言えません。地域住民とのワークショップに参加したり、ゼミで議論したりしながら、公園の活用法について検討してきました。
公園で、子どもと一緒に服をリメイク
渋谷区北谷公園:最近は、渋谷区神南にある北谷公園で行われるマルシェ(JINNAN MARKET)に継続的に関わっています。公園は渋谷区のものですが、そこをリノベーションして管理している民間会社にお声掛けいただいてのことです。「公園を単なる遊び場・休息の場ではなく、楽しみながら社会問題に挑むためのつながりをつくる場にできるのか?」——こんな目標を掲げて、ゼミ生とイベントを行ってきました。去年は「Re: Make Park」という「服のリメイクを広めるイベント」を主催。今年は「PBC Park-Ing」という「PBC=ペットボトルキャップを集めて途上国の子どもを救うワクチン注射に変える取り組みを紹介するイベント」を行いました。「Park-Ing」という言葉は、「ちゅうしゃ」を意味するのはもちろん、公園でのイベントを継続的かつ社会的なムーブメントにしたいという想いをこめて、Parkにingをつけて動態化してみたものです。こういったイベントの意義や名称もゼミ生と一緒に考えて実践しています。これらの取り組みについては、先ほども紹介した権ゼミの公式インスタグラムで発信されていますので、ぜひご覧ください。
受験生へのメッセージ
社会科の科目名ともなったことから、公共と言うと難しく感じたり、“大人”がつくるもの・関わるものと考えるかもしれません。全くそんなことはありません。大学に入って、一緒に公共を学び、つくっていきましょう!
※インタビュー当時の情報です。