さまざまな社会問題の現場から、今までの「当たり前」を捉え直していきましょう。

コミュニティ政策学科 原田峻准教授(地域社会学、社会運動論、NPO論)

2023/07/27

教員

研究内容

私の専門分野は社会学で、中でも地域社会学・社会運動論・NPO論を専門にしています。大学院博士課程の頃からこの10年ほど、主に以下2つのテーマに取り組んできました。
1つ目は、特定非営利活動促進法(NPO法)の制定・改正をめぐる市民の政治参加の研究です。
1998年に制定されたNPO法によって、福祉・教育・まちづくり・文化・環境・国際協力などの分野で市民団体が法人格を簡易に取得できるようになりました。また、2001年から税制優遇の認定NPO法人制度も導入され、当初は認定基準が高かったものの段階的な改正を経て、2011年に抜本改正されました。このNPO法の特徴として、法制定から改正に至る一連の過程の背後に、シーズ=市民活動を支える制度をつくる会など多くの市民団体のロビイング(政策提言、アドボカシー)が存在していたことを挙げられます。近年、狭義の利益団体に限定されない市民団体のロビイングが活性化していますが、NPO法はその代表例であり、法律の内容面だけでなくその制定・改正という手続き面でも市民参加のあり方を問うものだと言えます。
私の研究では、政治学(政策過程論、利益団体研究)と社会学(社会運動論)を架橋する分析枠組みを構築しながら、NPO法制定・改正に関与した市民団体や政治家など数十人の主要関係者に聞き取りを行い、当時の文書資料なども用いて、20年以上にわたる政策過程と社会運動の動態的な相互作用を描き出すことを目指しました。
私がこの研究に着手したのは、2011年に、「政権交代と社会運動」研究会にNPO法改正担当としてお声がけいただいたことと、認定NPO法人まちぽっとの「NPO法制度の制定過程の記録保存と編纂」事業に調査スタッフとして加えていただいたことがきっかけでした。この2つのプロジェクトを通して、博士論文のテーマとしてNPO法の制定・改正の研究に取り組むことになりました。博士論文を加筆修正して、原田峻『ロビイングの政治社会学——NPO法制定・改正をめぐる政策過程と社会運動』(2020年、有斐閣)という本に纏めました。
2つ目は、埼玉県における広域避難者支援の研究です。
2011年3月11日の東日本大震災・福島原発事故によって生じた問題の1つに、長期・広域におよぶ避難があります。2012年3月時点で被災3県以外に約27万人が避難し、避難生活が長期化する中で、多くの人びとが避難元のコミュニティと受け入れ先のコミュニティの狭間で「帰りたいけど帰れない」状態に置かれることになりました。全国で支援団体が立ち上がり、行政と民間による取り組みが喚起されたものの、求められる「支援」の内実や到達点が見えにくく、どのような支援をいつまで実施するかという課題が、各地で浮上しました。
その中で埼玉県は、避難者数の多さや、県庁の積極的関与を欠きつつ順応的に支援が構築されてきたことなどの特徴があります。私は2011年3月にさいたまスーパーアリーナの避難所ボランティアに参加したことをきっかけに、共同研究者とともに埼玉県における広域避難者支援に調査・実践として関わることになりました。地域社会学・災害社会学・環境社会学を参照しながら、時間軸に沿って国(復興庁)、福島県の各担当部署、避難先の自治体(埼玉県や市町村)、民間支援団体などの活動を、支援制度/支援事業の展開も含めて分析し、災害時や平時におけるローカルガバナンスの議論への貢献を目指しています。この成果として、西城戸誠・原田峻『避難と支援——埼玉県における広域避難者支援のローカルガバナンス』(2019年、新泉社)という本に纏めました。

以上のテーマに共通する私の問題関心として、社会問題を背景に立ち上がる主体の時間軸に沿った展開と、その主体による組織および組織間の連携を、常に追いかけてきたように思います。本学科においても、「社会問題→運動→政策」というコミュニティ政策学の動態的な側面を担っていければと考えています。
なお近年では上記のテーマの他に、コロナ禍における市民活動の研究や不登校支援の官民ネットワークの研究にも着手しています。

実践的な取り組み

埼玉県内の避難者向け情報誌「福玉便り」の誌面

上述したNPO法と広域避難者支援の研究は、それぞれ実践的な取り組みとあわせて実施してきました。
NPO法の研究において、私が関わった「NPO法制度の制定過程の記録保存と編纂」事業では、紛失の恐れのあったシーズ事務所・堂本暁子事務所保管資料などを収集・整理するとともに、当時の関係者に聞き取りを行いました。この資料は国立公文書館への寄贈を目指すとともに、その一部がホームページ(http://npolaw-archive.jp/)で公開されています。
広域避難者支援の研究においては、当初は「支援」と「調査」を局面ごとに使い分けていましたが、やがて「支援」の現場に深くコミットするようになり、埼玉県内の避難者向け情報誌「福玉便り」の発行や、NPO法人埼玉広域避難者支援センター(http://fukutama.org/)の運営などに研究者・実践者として関わってきました。自分たちの経験を再帰的に捉え返しながら、支援現場における順応性の成功例/失敗例を析出し、よりよい支援を考えていくことを目指しています。

学部での教育活動

学部の専門科目では、以下の3科目を担当しています。

  • 「福祉社会論」:現代社会ではさまざまな福祉課題が浮上し、福祉と社会の関係性を理解する重要性が増しています。この授業ではまず、福祉社会を理解するために必要な概念を学びます。その上で、高齢者、子育て、障がいのある人、子どもの貧困、災害などの事例を取り上げて解説します。これらを通して、これからの福祉社会を展望するために必要な能力を養うことを目指します。
  • 「社会問題の社会学」:「社会問題」とは幅広い問題群を包括した名称であり、社会学の対象はすべて社会問題だともいえます。本授業ではまず、社会学の諸理論をもとに、社会学的なものの見方を学びます。その上で、不登校・ブラック企業・ホームレス・排外主義など現代社会のさまざまな問題が構築される過程と、その問題を取り巻く人々の行為を解説します。これらを通して、身近な社会問題を社会学的に考察する能力を養うことを目指します。
  • 「社会運動論」:近年、脱原発運動、#MeToo運動、Black Lives Matter運動など、社会を変える主体として社会運動が国内外で注目を集めています。また、反貧困、LGBT、自殺対策などのテーマにおいて、NPO等によるロビイング(アドボカシー)が政策に影響を与えるようになりました。この授業ではまず、社会運動という現象を捉えるための社会学的な理論と方法を学びます。その上で、社会運動の歴史と多様な事例を理解して、社会を変える人々の活動について多角的に分析する能力を養うことを目指します。

また、演習科目はこれまで、「災害・復興支援とコミュニティ」「社会調査で読み解く、コロナ禍の社会問題」といったテーマで開講し、東日本大震災・福島原発事故について文献講読・ゲストスピーカーとの対話・合宿などを通して学んだり、コロナ禍のこども食堂について調査を実施したりしてきました。今後の演習科目でも、危機に直面したコミュニティの現状をテーマに掲げて、大学とフィールドを往復しながら取り組んでいく予定です。
卒業論文指導では、履修者自らが社会学的なテーマを設定し、何らかの社会調査を実施した上で、卒業論文を執筆することを目指します。

大学院での研究指導

大学院科目では「社会運動研究特論」を担当し、「社会運動論の理論と方法」というテーマで開講しています。本授業では、社会運動論の主要な理論と方法を理解し、それぞれの強みと弱みを比較できるようになることと、各自の研究に社会運動論の理論と方法を応用できるようになることを、目標としています。2023年度は、授業の前半に文献(濱西栄司ほか,2020,『問いからはじめる社会運動論』有斐閣)を輪読し、後半には国内外で起きている社会運動のうち各自が関心のあるものを1つ選んで順番に発表してもらい、毎回履修者全員でディスカッションを行いました。
院生指導については、コミュニティをめぐって実証的な社会学的研究を目指す方を歓迎します。私の専門領域(地域社会学・社会運動論・NPO論)に関心が近い方はもちろんのこと、専門領域や調査手法(質的調査/量的調査)を問わず、なるべく幅広く指導に対応いたします。

受験生へのメッセージ

コミュニティ福祉学部を受検する方々へ:大学では高校までと違って、学び方や学生生活の過ごし方を皆さんが主体的に選択することができて、一人ひとりに様々な可能性が開かれています。その中で、今まで「当たり前」と思っていたものを捉え直したり、新たな発見をしたりする経験を大事にしてほしいと思います。私の講義・演習では、様々な社会問題を把握するための社会学的なものの見方と、そうした社会問題にアプローチするための調査力・課題解決力を身に付けてもらうことを目指します。より良いコミュニティを目指して、ともに学んでいきましょう。

コミュニティ福祉学研究科を受検する方々へ:大学院では、自分の立てた問題設定をもとに研究をおこない、論文を執筆することが中心になります。このプロセスは一方向に進むと思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。時には調査をする中でテーマが変わったり、本文を書きながら仮説やアウトラインを修正したり、その往復の連続でもあります。かく言う私は、自身の大学院修士課程でも博士課程でも、進学時の研究計画書とは異なるテーマで論文を執筆することになりました。当初の研究計画が行き詰った際に、私を救ってくれたのは、新たなフィールドとの出会いでした。そこから徐々に研究テーマが定まり、調査対象者の方々のご協力や、指導教員や他大学の先生方からのご指導、同世代の大学院生との切磋琢磨を通して論文執筆に至りました。多くの方々に支えながら試行錯誤を繰り返したプロセス自体が、他では得難い大学院生活の醍醐味だったように思います。本研究科では、皆さんの研究生活をサポートする体制を用意しています。コミュニティを基盤とした社会問題の解決を目指して、フィールドと対話しながら問いを深めていってくれる方を、お待ちしております。
※インタビュー当時の情報です。

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