教員インタビュー

空閑 厚樹教授(バイオエシックス、生命倫理学、持続可能な福祉コミュニティ形成)

2023/04/01

OVERVIEW

コミュニティ政策研究をしている空閑 厚樹教授にインタビューをしました。

研究内容

私の研究領域は生命倫理学(バイオエシックス)です。現在、主に取り組んでいる研究テーマは地域活性化です。生命倫理学の視点から地域活性化についてどのように研究を進めているのか紹介します。

生命倫理学は1960年代終わりから70年代にかけてアメリカ合衆国で「バイオエシックス」として形成された比較的新しい学問領域です。日本には1980年代に主に脳死臓器移植を主要テーマとして紹介されました。そのため、「生命倫理学」というと医科学技術の進展に伴う新規な倫理的問題を扱う領域という印象が広くもたれています。しかし、米国におけるバイオエシックスの成立背景を調べてみると、そこでの問題意識は医科学技術の関連領域に限定されないものであることが明らかになります。
1960年代終わりから70年代の米国社会は大きな社会変動を経験しました。公民権運動、女性解放運動、環境保護運動、消費者運動等です。いずれもそれまで声を上げることを抑えられてきた人々がその生命、生活、生き方(ビオス)の尊厳を求める運動を展開しました。このような歴史的、文化的、社会的背景を考慮して、「バイオエシックスは、旧来の医療専門家中心の<医の倫理>とは、その発想も方法論も体系もまったく異なる新しい学問分野であり、運動なのです。その意味で、自分のいのちを大事にしたいと願っている人びとは、すべてバイオエシックス運動の中心なのです。」と指摘するのは、私が大学時代に指導を受けていた木村利人先生です。木村先生は日本にバイオエシックスを紹介した研究者の一人です。その木村先生との出会いが、私が生命倫理学(バイオエシックス)の研究を志したきっかけでした。

さて、現代社会において生命、生活、生き方(ビオス)をめぐる喫緊の課題とは何でしょうか。地球環境問題であることには多くの人が同意すると思います。より具体的には気候変動です。日本においても豪雨や干ばつ、酷暑などを経験することが増えました。その原因は人間活動が原因で引き起こされた気候変動であり、早急に対策をとることの必要性があると指摘されています。しかし、2050年までに二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしなければならないという国際的な合意があるにも関わらず、排出量は増えています。そして、このままでは2100年までに気温は3度から5度上昇し、壊滅的な影響をもたらすことになると警告されています。2020年に世界規模で蔓延した新型コロナにより経済活動が縮小しました。その結果、例外的に温室効果ガスの排出量も減りましたが、ワクチン開発や免疫の獲得などで終息すれば経済活動がコロナ禍以前以上に活発になされ、温室効果ガス排出量も大幅に増加するのではないかと危惧されています。
地球環境問題の取り組みの難しさは、「より豊かな生命、生活、生き方」を求める人間活動が、結果として生命、生活、生き方の土台自体を崩してしまうことです。つまり、持続可能ではないということです。この課題と取り組むには、「豊かさ」の内実を再検討すること、そして観念的な議論で終わらせることのないように具体的な事例を通して研究を進めることが重要であると考えています。
「豊かさ」について多くの示唆を与えてくれるテーマが「地域活性化」です。地域が活性化する、とはこれまで主に経済活動が活発になること、すなわち規模が拡大することと理解されてきました。しかし規模の拡大のもたらす環境負荷、そして何より日本が人口減少社会であることを考慮すると、このような従来の考え方とは異なる視点が求められます。そこで豊かさについては、人と人、人と自然、過去と現在の繋がりを深め広げることと捉え、埼玉県小川町を主なフィールドとして地元NPO団体、地元企業、行政と協力して研究を進めています。また、持続可能なコミュニティ形成を推進しているグローバルなネットワークであるGlobal Ecovillage Network 日本支部メンバーとして、教育プログラムの開発やSDGs教材の日本語翻訳作業を共同で実施しています。

バイオエシックスの歴史に遡って、具体的な事例とともに検討した論文として、2017年にTowards a sustainable future: the bioethics of sustainable living vis a vis the bioethics of Fritz Jahr, Fritz JAHR: From the origin of Bioethics to Integrative Bioethicsを執筆しました。これは先に書いた木村先生との議論に着想を得て執筆したものです。小川町での活動に関する論文としては「「有機」の再確認から始める地域活性化」『まなびあい』8号(2015年)があります。

研究指導

担当している大学院科目は、福祉人間学研究です。生命倫理学が医科学研究の領域に限定して理解されるようになった思想的背景について、日本語で書かれた論文講読を通して批判的に検討にした後に、生命倫理と環境倫理の境界領域についての論文(主に英文で書かれたもの)を読みます。

受験生へのメッセージ

大学院では学部以上に主体的な学びが求められます。つまり自分が本当に明らかにしたいというテーマと取り組むことができるということです。これは、研究テーマが自分にとってどれだけ切実かということの反映であり、自分と向き合うことで浮かび上がるものです。このような経験を経て修士論文を完成させた経験は、研究科修了後研究者になる・ならないにかかわらず人生の宝になると思います。

※インタビュー当時の情報です。

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