人口減少時代の新しい都市と社会のかたちを一緒に考えよう。

コミュニティ政策学科 武者忠彦教授(人文地理学、まちづくり、都市再生)

2023/10/06

教員

研究内容

人文地理学という学問領域のなかで,「都市計画(まちづくり)の人文学」をテーマに研究しています。

都市計画やまちづくりを人文学的に研究するとはどういうことでしょうか。

従来,これらを研究してきたのは都市工学や建築学といった工学系の分野ですが,近代都市計画の批判とともに,工学的に正しいとされる機能やデザイン,事業や組織を「入力」すれば,快適で賑わいのある都市が「出力」されるという法則が,必ずしも成り立たないことが明らかになってきました。現代のまちづくりでは,よい計画がよい都市を生むという工学的な思考だけでは不十分で,計画をめぐる人間の行為が影響し合ってよい都市が生まれる因果連関のストーリーを記述する社会科学的な思考が必要になってきています。たとえば都市の緑化を考える場合,公園をどれくらいの比率でつくれば都市は快適になるといった一般法則だけでなく,ある社会や経済の条件の下で公園を誰がどのように利用し,そこにどんな関係が生まれるのかを説明するストーリーが重要となります。

別の言い方をすれば,利便性や効率性を追求した「都市化」の時代には,近代化という都市像が共有され,それに向けた合理的な戦略にもとづいて都市というシステムを制御するという考え方が優勢でした。一方,これからの地域性や持続可能性が重視される「都市らしさ」の時代には,前提とされる都市像などなく,ローカルな状況に合わせた個々の戦術的な実践が連鎖して,事後的に都市のらしさが共有されるという考え方が主流になります。
このような潮流の変化を,私は「工学的アーバニズム」から「人文学的アーバニズム」への転換と表現していますが,都市計画やまちづくりのメカニズムについて,地域の文脈と豊かな人間像を前提とした具体的なストーリーで論理的に説明しようとする人文学的視点は,工学的アーバニズム全盛時代のまちづくりを反省的に分析し,人文学的アーバニズム時代のまちづくりを本質的に理解する手がかりになると考えています。

このような研究アプローチに興味がある方は,右の書籍(箸本健二・武者忠彦編 2021.『空き不動産問題から考える地方都市再生』ナカニシヤ出版)を参考にしてみてください。その他の研究業績や研究活動については,以下のサイトでも詳しく紹介しています。

実践的な取り組み

上記のような人文学的アーバニズムの鍵概念として,個々の主体が都市の文脈を読み解いて,リノベーションなどを通じて都市の街並みや生業を主体的に継承していく「文脈化」があります。研究活動と並行しながら,人文学的アーバニズムの実践活動として,ゼミや地域のまちづくり団体等とともに,都市を文脈化するための土台となる地域調査も続けてきました。いくつかの成果は,書籍やZINE(自費出版誌)としても出版しています。

学部での教育活動

学部の専門科目では,近代都市計画から現代のまちづくりに至るまでの学問的,実践的な潮流を俯瞰する「まちづくり論」,地域課題の新しい解決手法として,顔の見える関係のなかで成立するビジネスを考える「コミュニティ・ビジネス」,地域の空間的なダイナミクスを地理学の理論や視点から読み解く「地域地理学」などの講義を担当しています。

一方,学部のゼミは,大学での学びを象徴する場と考えています。先生が問いを立て,生徒が答える高校までの学びと異なり,教員も学生も一緒になって問いを立て,答えを導くのが大学での学びです。しかも,答えは一つではないし,場合によっては解なしの場合もあります。そのような条件のある環境は,大学を出てから待ち構える複雑な現代社会そのものです。そうした社会を生き抜くための能力として,ゼミでは3つの力を身につけることをめざしています。

1)自ら問いを立てて論証する力
問いそのものを自分で発見しなければならないという点が,高校までの学びと最も異なる点かもしれません。目の前に広がる地域の多様な現象に対して,いかに適切な問いが立てられるか(近頃の本のタイトル風にいえば「問いが9割」という感じでしょうか)。もちろん,その問いに対して仮説を考え,さまざまなデータや資料で論証する能力も重要であり,ゼミでは研究や実践を通して,そうした力を身につけていきます。

2)社会と対等にコミュケーションする力
みなさんは「コミュ力」の高い人といわれたら,話の上手い人や友達の多い人を想像すると思いますが,それは社会で求められるコミュ力とは少しちがうかもしれません。趣味や嗜好が近い仲間と「つるむ」のとは異なり,ひとたび社会に出れば,ありとあらゆる相手と信頼をベースにしながら「それなりに」うまくやる力が求められます。そのようなコミュ力は,個人の性格を問わず,大学のあいだに「大人と話した時間に比例する」と考えています。

3)いろんなことに興味をもつ力
就職活動の初期に学生からよく耳にするのが「何にも興味がないから,どこから手をつけていいかわからない」という相談です。しかし,興味は天から降ってくるものではなく,経験を積むなかで自分の内面から湧いてくるようなものです。「興味がないから動けないのではなく,動かないから興味がない」のであって,ゼミでは人生の分岐点を迎える前に,いろんな地域で多様な経験をすることを重視しています。

大学院での研究指導

専門とする人文地理学は,「地域性や場所性のある現象を説明する学問」あるいは「空間的秩序や地域のつながりの合理性を理解する学問」であるといえます。どちらかといえば,社会ではなく空間,過去ではなく現在,制度ではなく現象を重視して説明する学問といってよいかもしれません。

そのため,大学院で指導する研究テーマも,地域で生起している現象はだいたい研究対象に含まれますが,そのアプローチは,あくまで上記の視角に即したものとなります。人文地理学のアプローチについて詳しく知りたい人は,右の書籍(竹中克行編 2022.『人文地理学のパースペクティブ』ミネルヴァ書房)を参照してみてください。私も本書の8章「都市を再生する人々」を執筆しています。

受験生へのメッセージ

大学を受験するみなさんの世代では,これまでのテスト勉強や受験勉強を通じて,最小の努力で最大の成果を得るという「コスパ」の精神が,学びの基本的なスタンスになっている人が少なからずいることでしょう。もちろん,コスパの追求そのものは悪いことではありません(日々の生活では,コスパよくタスクを処理してくことが不可欠ですね)。ところが,大学における学びでは,このコスパ精神がたびたびみなさんの邪魔をします。

なぜなら,大学での学び,特にゼミでの演習や論文執筆などの「研究」とよばれる作業は,高校までの勉強とはちがって予め与えられた唯一つの正解というものがなく,「こういう作業や分析を進めていけば必ずゴールにたどりつく」という予備校的必勝法が存在しません。むしろ,研究を作業を進めていく上での重要な気づきやデータの発見,研究協力者との出会いなどは,たいてい予期せぬところにあるものです。「大事なことは,だいたい寄り道に落ちている」といっても過言ではありません。

だからこそ,大学に入ったらぜひ,一見すると研究テーマに無関係と思われるような会合やイベントに出席したり,時には自分の知らないフィールドに出掛けてみたり,専門と異なる分野の文献を読んでみたりしてほしいと思っています。このような「最長距離を歩いて研究の本質にたどりつく(コスパ最低な)学び方」に興味がある人は,ぜひ研究室の扉を叩いてみてください。
※インタビュー当時の情報です。

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