自分と違う異質な他者と共に生きていける社会のあり方を一緒に考えていきましょう。

福祉学科 掛川直之准教授(司法福祉学、刑事司法ソーシャルワーク、犯罪行為からの離脱支援)

2023/07/28

教員

研究内容

わたしは、受刑経験のあるかたの生活史を手がかりに、犯罪からの社会復帰とは何かを問い、累犯者が犯罪行為を手離して生きることを支える仕組みについて考えることをライフワークにしています。同時に、国内の地域生活定着促進事業や地域再犯防止推進計画の展開にも注視しつつ、随時、国内外の刑事司法福祉政策や刑事司法ソーシャルワークのリアルを把握するためのフィールドワークをおこない、社会福祉学の立場から刑事司法と福祉に関連する研究を進めています(写真1)。

   写真1 調査研究の折に立ち寄ったEastern State Penitentiary

もともと、わたしは、法学部・ロースクールの出身で、刑事政策・犯罪学の世界でつねに第一線で活躍されている先生方の最先端の授業やゼミナールを受講するなかで、「現在の日本の刑事司法手続きでもし自分が裁かれることになったら……」という問題意識を生成していくことになりました。そして、多くの「当事者」といわれるかたがたのお話を聴かせていただくなかで、おそらく誰しもがもつ「当事者性」に気がつくことができ、わがこととして刑事司法の問題を考えることができるようになっていきました。刑事法学のおもしろさに魅せられる一方で、次第に、法学的なアプローチでは、犯罪行為者に表面的な「反省」を促し、刑務所に隔離して一件落着となってしまい、犯罪行為の背景にあるはずのさまざまな「生きづらさ」には迫ることができず、何の「解決」にもなっていないのではないか、と考えるようになりました(その後の研究において、必ずしも「解決」する必要はないのだということに気がついたのですが……)。
そこで、わたしは、まず、犯罪現象を正確に理解する視点を修得すべく修士課程で社会学を学び、ついで博士課程で社会福祉学的な視点を学びはじめました。こうして博士号を取得した後、刑事司法ソーシャルワークの専門機関である大阪府地域生活定着支援センターにおいて、ソーシャルワーカーとして参与観察する機会に恵まれ、一から刑事司法ソーシャルワークの基礎を叩き込んでいただく幸運に恵まれました(社会福祉の世界では、実務家が研究者に転じることはよくありますが、実務経験のない研究者が研究者の立場のまま実務につくということは珍しいのではないかと思います)。

ソーシャルワークの倫理と価値とが鋭く問われる刑事司法ソーシャルワークの現場で、ソーシャルワーカーとして活動することができたことは、わたしの研究のあり方を左右する大きなターニングポイントになりました。そうして、刑事司法ソーシャルワークを理論化するという新たな研究テーマにもであうことができたのです。

   写真2 わたしの研究成果の一部

上記にかかわる研究成果としては、
  • 掛川直之著(2020)『犯罪からの社会復帰を問いなおす:地域共生社会におけるソーシャルワークのかたち』旬報社
  • 掛川直之編著(2018)『不安解消!出所者支援:わたしたちにできること』旬報社
  • 掛川直之・飯田智子編著(2022)『出所者支援ハンドブック:刑事司法ソーシャルワークを実践する』旬報社
などがあります(写真2)。

学部での教育活動

わたしが、学部で担当する「刑事司法と福祉(司法福祉論)」では、「なぜ、罪に問われた〈悪い奴〉を支援する必要があるのか」ということを具体的に理解できるようにしていただくことを第一目標に据えています。司法福祉学は、社会福祉学のなかでもまだ歴史が浅く、みなさんにとっても共感しにくい領域かもしれません。しかし、罪に問われた人びとが、なぜ、罪を犯したのか、その背景にある「生きづらさ」を理解していただくことができれば、少しずつ見方が変わってくるのではないかと思っています。かれらは決して、自分とは違う異質なモンスターなどではなく、チャンスを与えられなかったわたしたちなのだ、という視点を身につけていただければと考えています。
また、わたしの司法福祉学ゼミナールでは、現在進行形で生起しているリアルに注視にすること、そのためにフットワーク軽く、現場に出かけることを大切にしています。ですが、安直にフィールドに出て行っては、調査されるほうは迷惑でしかありません。そこで、司法福祉学を学んでいく最低限の基礎力を修得していただく必要があります。そのため、まずは、基本的な書籍や論文を輪読するなかで知識を身につけていただいたり、刑事裁判の傍聴に出かけていただき、傍聴記録から福祉的ニーズを考える、というところから始めるようにしています。フィールドに出る準備が整い次第、出所者支援に携わるさまざまな専門職や受刑経験者等の「生」の声をできるだけたくさん聴かせていただく機会を設けたり、刑務所や少年院等への施設参観に出かけたり、希望があれば他大学との合同ゼミ等をおこなったりもしています。今後は、関連する社会資源ともコラボしながら、出所者を支える地域づくりにもとりくんでいければと考えています。
しかしながら、ゼミナールというものは、ゼミナリスト一人ひとりがつくりあげるものです。何かを教えてもらうという高校までの受動的な「生徒」としての態度は基礎演習等を通じて捨てていただき、能動的に学ぶ「学生」としての姿勢で、大学生の間にしかできない活動を考え、貴重な経験を自ら掴みとってください。わたしは、そのための協力は惜しみません。そして、できれば、ゼミナリスト相互の横の関係、先輩後輩の縦の関係をつくっていき、卒業後もみなさんが気軽に立ち寄れるようなゼミナール(・研究室)になればと願っています。
なお、司法福祉を学びたくて立教大学に入学したが、なかなかその機会がない、という1年生から連絡をいただき、数名の学生たちと自主ゼミナールなども開催しています。学びたいという意欲のあるかたからの連絡はいつでも歓迎します。

大学院での研究指導

わたしが、大学院で担当する「司法福祉学特論」では、刑事司法と福祉というテーマをベースに、受講生の関心にあわせて、関連する書籍の輪読や論文の精読をおこなっています。
司法福祉学は、生活困窮・高齢・障害・児童等といった社会福祉学領域の諸研究とどこかで関連しています。ともに学んだことが、受講生それぞれの学位論文執筆に深みを与えられるようになればと考えています。
また、司法福祉学をそれぞれの学位論文のテーマとして設定する受講生とは、共同研究者としてともにひとつのテーマにとりくむなかで、論文執筆の作法を身につけていただけるようにと考えています。その際には、できるだけフットワーク軽くフィールドワークに出かけ、「調査される側の迷惑」をつねに意識ながらも、「生きた」ソーシャルワーク研究を進めることを心がけたいと思っています。
近年、学術雑誌への査読論文の掲載が過度に重視されています。その弊害のひとつとして、とくに、いわゆる質的研究領域において、単に型にはめたようなものが多くなっているようにも感じられます。とりわけ、大学院生の多い名門研究室では先輩から後輩に査読に通すための「技術」が継承され、同じような「研究方法」での「分析」が施され、語り手の語るいきいきとした語りは鳴りを潜め、聴き手の「書きたい事実」に封じ込められていっているようにさえ見えるときもあります。もちろん、基本の型を覚えることは重要です。ですが、当該フィールドにおいて現在進行形で起こっているリアリティに向きあうことこそが大切だとわたしは考えています。ともに、現実に真摯に向き合い、「おもしろい」「わくわくする」研究ができる仲間にであえることを期待しています。

実践的な取り組み

   写真3 出所者支援をイメージしたオリジナルマスコット

わたしは、大阪・名古屋・東京を中心とした調査・研究を継続的におこないながら、受刑経験のあるかたを差別したり、排除したりすることなく、人間としての尊厳をもって、平穏に、暮らしていける地域づくりの実践にもとりくんでいます(写真3)。
とくに、博士課程入学前ころから、名古屋では、同志と一般社団法人を立ち上げ、ソーシャルワーカーや弁護士、学生等を対象とした地域づくりのための連続学習会などの草の根の活動を毎年続けています(写真4)。また、地域生活定着支援人材養成研修講師をはじめ、求められれば、弁護士会、保護司会、社会福祉士会、地域生活定着支援センター、社会福祉協議会、高齢者施設、障害者施設、自治体等の研修でも積極的に講師を引き受けるようにもしています(写真5)。
直近では、大阪府地域生活定着支援センターの受託団体である一般社団法人よりそいネットおおさかの理事、更生保護法人日本更生保護協会休眠預金活用事業実行団体選定審査会委員/専門家委員や調布市再犯防止推進計画策定委員会副委員長、東京都再犯防止サポーターズ交流会コーディネーター、東京TS支援検討委員会検討委員等を務めるなどするほか、わたしの学部ゼミナールの学生が中心になってとりくんでいる立教大学BBS会の立ち上げにも協力しています。

   写真4 わたしがとりくむ地域づくりのリーフレットの一部

   写真5 出所者を受け入れる障害者グループホームでの職員研修の様子

受験生へのメッセージ

司法福祉学という学問は、あくまで福祉学であり、法学ではありません。刑事法学や、時に、社会学の研究者までもが安易に司法福祉を論じようとすることがありますが、決して片手間に研究できるものではないと思っています。また、最近は社会福祉学の領域のなかでも、司法福祉に関心をもつかたも出てきましたが、法学の理解なしに容易にとりくめるものでもありません。司法福祉学の研究は、社会福祉学を基盤に、法学や社会学の視点を応用しながら進めていく必要があります。
もっとも、わたしじしんも、まだまだ修行中の身ですので、受講生のみなさんに何かをお教えすることはできないかもしれません。しかし、受講生のみなさんと一緒に考えることはできると考えています。ぜひ、受講生のみなさんが「共同研究者」となって司法福祉学を学び、立教大学に司法福祉学の研究拠点を築きあげていきましょう。気軽に研究室訪問のお問い合わせをいただければと思います。
なお、司法福祉学を学んだみなさんには、法務省、刑務所、少年院、保護観察所、家庭裁判所等といった刑事司法関連の諸機関、厚生労働省、地域生活定着支援センター、社会福祉協議会等といった社会福祉関連の諸機関、都道府県や市区町村の役所において広い意味での犯罪行為からの離脱支援にかかわる行政の諸機関において活躍していただきたいと考えています(改めて言うまでもなく、一般企業等に就職する際にも、その考え方は生かせます)。もちろん、博士課程前期課程でさらに学びを深めてから上記の道に進むことも有益でしょうし、博士課程後期課程に進学して司法福祉学の研究者を志していただくかたも歓迎します。
大学院においては、逆に、上記の諸機関で活躍しておられる現場のソーシャルワーカーのみなさんにも、働きながら、自らのソーシャルワーク実践を整理し、その成果を、再度、自らの福祉臨床の現場に還元していく機会をもっていただければとも考えています。
※インタビュー当時の情報です。

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