多様な福祉サービスについて一緒に学びながら、福祉専門職を目指しましょう!

福祉学科 任セア助教(介護・高齢者福祉政策、国際比較、人材育成)

2023/08/04

教員

研究内容

わたしの研究キーワードは、「介護・高齢者福祉政策」「国際比較」「人材育成」「専門性」「専門職」です。年を取ることはどういうことでしょうか。専門的な研究内容に入る前に、ぜひ理解してほしいことがあります。この世の中、年を取らない人は一人もいません。また、赤ちゃんで生まれ、高齢者になるまでケアが不要な人は誰もいません。ケアをする側・される側に年齢・性別・性的指向・国籍はまったく関係ありません。ケアを受けることはごく普通のことでありながら自然なことです。「まだ、私は若いから介護なんか興味ない、死を迎える準備をしなくてもよい」「社会福祉と介護は別であり、介護はまったく興味ない」「3大介護(食事・入浴・排せつ)であり、誰でもができる熟練度の仕事でしょうね」と思っている方もいらっしゃると思います。
しかし、上記でも述べたように人は年を取ります。【介護】も社会福祉の中の一つであり、大事な領域です。また、専門的な介護を行う際には、科学的根拠、きちんとしたエビデンスが求められます。
理解を深めるために食事介護を例として挙げます。食事介護にもその人の健康状態をエビデンスとして考える必要があります。例えば、「栄養バランスや普通食が取れる健康状態なのか、咀嚼・飲み込みはできるか、アレルギー有無、現在、服用している薬と食事のタイミング、睡眠状態、現在の気分の状態、好き嫌い、排便回数・排便量」等を考えたうえで、その人にあった、食事介護を行わなければなりません。必要に応じては、管理栄養士、看護師、医師等専門職との連携も求められます。そのために、介護に関する知識・技術のみでなく、幅広くは医学(医療)的な知識も必要となります。そのなかで、もっとも求められることはソーシャルワーク的な視点から「変化に気づく」「エビデンスに基づいて考える」ことです。このように専門的な知識・技術を持つ介護人材はとても重要です。
以上では、分かりやすく実践の場面を例と挙げましたが、実践と制度、政策は深く関連しています。自分自身のこと、さらに自分の家族を守るためにも日本における「介護・高齢者福祉政策」に関する知識は必要不可欠です。わたしの研究は、主に「介護人材の質的確保」における政策の課題の疑問から始まりました。介護分野では介護福祉士有資格者以外にも多様なルートを経て参入する無資格者・未経験者も少なくないです。このような状況にありながら、今日においても介護職の専門性はどうあるべきかについて未だ明確にされていません。そのうえ、介護職の専門性についての社会的評価も低い状況です。
国の政策では、介護職の人材確保の観点から質的確保のため、介護職の資格種類である介護福祉士を専門性の高い人材として捉えて特定の資格の専門性を図る一方で、なぜその職業である介護職は専門性の高い人材として捉えられてこなかったのか、そして介護職の専門性を明確にすることが困難であったのだろうか。さらに、実践現場における介護職は、介護業務を行う際に、どの介護業務に専門性が求められるか、どの介護業務が重要であるか、どの介護業務ができるか等、何をどうすればいいのかが分からない場合が多いです。これによって、利用者に提供する介護サービスが適切であるかどうかの判断ができず、自信がないまま介護サービスを提供している状況にあります。このことは、介護職の問題のみならず、介護サービスの質の問題でもあります。このことから、「介護需要の増加に伴い発生する介護人材不足問題を解決するため、実践現場での人材育成仕組みの構築」に注目しました。
これからの研究では、人口の高齢化で介護人材不足を経験した3か国(日米韓)に注目し、介護人材不足問題の背景となる歴史的な変遷を含む政策・施策・事業を十分に検討することを目指しています。今後の介護人材不足問題を巡る悪循環を断ち切り、日本の介護人材養成の在り方について考えるためには、実践を視点に入れつつ、参入・養成・定着に焦点を当てて、歴史的な変遷を含む政策・施策・事業を十分に検討することで日本の介護人材確保における今後の介護人材養成の在り方について示唆を得ることを目指しています。
上記にかかわる研究成果としては、

  • 任セア著(2020)『介護職の専門性と質の向上は確保されるか:実践現場での人材育成の仕組みづくりに関する研究』明石書店
  • 埋橋孝文共編著『福祉政策研究入門 政策評価と指標 第1巻——少子高齢化のなかの福祉政策』(第3章「介護人材確保をめぐる政策の課題」担当)明石書店

などがあります。

学部での教育活動

現在担当している科目は、「ソーシャルワークの理論と方法2」「現代社会とケアシステム」「ソーシャルワーク実習指導」「基礎演習」等を担当しています。いつも授業では、「試験勉強のために覚えるのではなく、理解する・考える・疑問を持つだけで十分です」と学生に伝えています。
教育的課題は、「どうすれば教育の質が高まるか」「どうすれば、学生が楽しく学ぶのか」です。大学教員の役割とされている「教育」「研究」「地域社会への貢献」すべてが重要ですが、特に重要視しているのは、「教育者」として「学生の視野を広げ、思考力を高める教育」を行うことです。そのためには「研究者」としてエビデンスに基づく教育を行うことが大切であると考えています。また、学生が能動的・主体的に学習する「アクティブラーニング」と、自分自身のスキルや能力などを鍛えて磨くことの「自己研鑽」「自己啓発」を行うことを重要視しており、「自ら手を挙げて自由に語れる、質問できる、議論できる場」を設けています。その前提は、学生が「大学の授業は楽しい!任先生には何でも質問しやすい」と思うことであるという教育的信念を持っています。

実践的な取り組み

実践現場が好きで、長年の間福祉職(生活相談員・介護職)として介護施設で働きました。現在も訪問介護の実践現場に携わっています。上記でも述べたように、「人材育成」が研究キーワードの一つであることから、直近では「人材育成」の観点から「エビデンスに基づいた効果的な介護人材育成の仕組みの構築—参入ルートが介護人材の専門性認識と仕事の継続意向に及ぼす影響—」の実態調査を行いました。また、「社会福祉法人こうほうえん苦情解決第三者」委員として、指導・アドバイスも行っています。さらに、留学を経験した外国人当事者として令和4年度老人保健健康増進等事業「外国人介護人材の質の向上等に資する学習支援等調査研究事業」に関する検討委員の活動を行いました。その成果として「外国人介護人材の質の向上等に資する 学習支援等調査研究事業 報告書」「介護福祉士国家資格取得に向けた留学生指導についてのガイドライン改訂版」「介護福祉士国家資格取得に向けた留学生のための学習ハンドブック」が発行されました。また、昨年まで介護福祉士養成大学連絡協議会の介護福祉士国家試験対策委員として、「合格きっと(eラーニング)」という学習支援システムのリニューアルの主要メンバーとして学生が学習しやすいシステムにリニューアルし、学生・教員向けての「合格きっと(eラーニング)」使い方や介護福祉士国家試験勉強方法、指導のポイント等についての講演も行いました。

受験生へのメッセージ

コミュニティ福祉学部は、「いのちの尊厳のために(Vitae Dignitati)」という基本理念に立ち、教育研究を通じて、コミュニティを基盤とした福祉社会構築に貢献できる人材を養成することを目的とします。
まずは、「コミュニティ福祉学部の教育目的と各種方針」「教育プログラム」を理解したうえで、受験してほしいです。
【福祉学科】では、「理論・制度・サービスの理解」「援助の方法・技術の理解」「演習・実習による理解」 の三つの柱に基づき多様な専門科目を配置してします。特に、社会福祉士の国家試験受験資格の取得ができますが、資格取得がすべてではありません。大学での学びから社会課題を見つけて、そこから「なぜ、このような問題が起こったのか」「もっと知りたい」という問題意識をもち、卒業研究の執筆まで行ってほしいです。
大学生の時しかできない、インターンシップや海外研修等も積極的に取り組むことによって、皆様の福祉に関する視点は広がると思います。立教大学で素敵なキャンパスライフを楽しむことを想像しながら、入学前から戦略的に将来のことについて計画を立てましょう。皆様のご入学をお待ちしております。
※インタビュー当時の情報です。

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