何でもいいので1つのことに熱中して、自己を確立する4年にしてください。

コミュニティ政策学科 藤井誠一郎准教授(地方自治論、行政苦情救済、 公共サービス、地域経営)

2023/09/01

教員

研究内容

●研究の道へと入ったきっかけ
バブル崩壊後の就職難から希望の業界には就職できず、行きついた先は母校の事務職員でした。約3~5年で人事異動となり全く別の職に就く人事システムでしたので、その道のプロフェッショナルになりたいという思いは実現しませんでした。20代は税理士試験に挑戦したり30代前半はITの勉強に没頭したりしていましたが、仕事上、途中で断念せざるを得ない状況に追い込まれ、何をやってもプロになれない中途半端な状態で30代後半に入りました。
その後、大学院に通うことを思いつき、1年間の準備の後、37歳の時に母校の総合政策科学研究科の門をたたいたところ、何とか合格を頂け、地方自治のゼミに所属することになりました。17時までは事務職員として勤務し、18時半頃から大学院の授業を聞きに行く生活が始まりました。
私が学部の時は経済学部でマクロ経済学を専攻していましたので、全くと言っていいほど地方自治は分かっておらず、一から勉強する必要がありました。そこで、指導教員である今川晃先生(2016年ご逝去)にお願いし、学部で教えておられた地方自治論の授業をICレコーダーで録音させて頂き、それを聞くところから始め、文字起こししてファイルに綴じながら地方自治に関する基礎的な知識を貪欲に吸収していきました。
一方、所属するゼミナールの活動には、京都府が主催する政策提言、「全国大学政策フォーラムin登別」、三重県紀北町の合併後のまちづくりの調査等があり、それに積極的に参加して地域の現状の把握に努めていきました。その過程で、地域づくり活動の現場で汗を流す数々の人々にお話をお伺いすることで、その人々の活動から地域社会が置かれている状況を考察し、住民自治を推進していくにあたっての課題は何かについて考えていくようになりました。そして、現場重視の姿勢で研究対象に迫ることが自らの研究スタンスであるという意識が固まっていきました。
修士課程での学びが進むにつれ、指導教員である今川先生からご指導を頂く機会が多くなり、先生の偉大さを痛感するようになりました。大学院入学時に掲げた「大学の地域貢献」についての論文がM1の夏の紀要に掲載されることになったため、残った時間を本格的に地方自治の勉強に費やしていきたく思うようになりました。
そこで、今川先生が地方自治論の大家の佐藤竺先生に入門されて学ばれたように、私も今川先生に入門して本格的に地方自治論を勉強したいと思い、「弟子にしてください」とお願いし、快く受け入れて頂けました。その後は、「師匠に恥をかかす弟子であってはならない」という思いや、「師匠に少しでも近づきたい」という思いを抱き、貪欲に知識を吸収しながら、先生より与えて頂くチャンスをものにして研究を進めていきました。
その後、順調に研究が進み、社会人でありながらもストレートで博士号を取得でき、44歳の時に大学の教員に採用され研究者の道を歩むことになりました。師匠と同じステージに立てた喜びも束の間、その翌年に今川先生は急逝されました。これからもたくさんのことを学ばせて頂きたく思っていたので残念でなりませんでしたが、今川先生から「自らの研究を自分で切り拓いていけ」と究極のご指導を頂いたのだと受け止め、師匠の教えや研究を引き継ぎ、より発展させていくという気概で毎日自らの研究に向かい合っています。
●現在取り組んでいる研究
現在私は3つの大きな柱を立て、研究を進めています。
第一は、地域自治の研究です。大学院の研究でフィールドにしていた広島県福山市鞆町を現在でもフィールドにし、そこで生じている地域課題を分析し、一般化し、それをどのように解決していくかを考えています。また、京都府京丹後市大宮町も重要な研究フィールドにしています。とりわけ奥大野区の運営手法について学んでおり、今後の地域自治のあり方を考える際の良き事例として参考にさせて頂いています。その他、話題となっている地域に足を運び、現地をしっかりと観察して地域課題をどのように解決していくかについて思考を巡らせています。
第二は、公共サービスの提供体制についてです。わが国ではこれまで新自由主義的な政策から、公共サービスの民営化や業務委託、公務員減らし等が進められてきましたが、コロナ禍で保健所に電話しても通じなかった例が象徴的なように、これまでの政策が仇となり不測の事態が生じた際に公共サービスが提供されないという状況が生じています。私は清掃行政の現場に身を投じ、清掃職員の皆さんと共にごみ収集を行いながらこれまで削減され続けた技能労務職員の今後のあり方を展望しています。また、赤字ローカル線の切り捨て問題についてもアンテナを張り巡らせています。民営化された後の会社の公共サービスの提供責任について、鉄道の現場で働く皆さんから情報提供を受けながら、考えを巡らせています。
第三は、行政苦情救済についてで、自治体の公的オンブズマン制度や国レベルの行政相談制度について研究しています。行政サービスを受けた際に、自らの人権が侵害された、不公平に対応された、不利益を被った、等といった際には担当課に苦情を述べますが、言っても埒が明かない場合には、第三者的な立場で苦情を聞き、その苦情を分析し、必要ならば行政に改善を言い渡すオンブズマンを利用することが可能となります。とはいえ、オンブズマン制度を導入している自治体は限られ、全ての自治体に存在するわけではありません。また、オンブズマン制度を導入していた自治体が制度を廃止する動きも出ています。これらのことを受け、何故導入しないのか、何故廃止するのか、を分析し、良き行政(グッド・ガバメント)のあり方について思考を巡らせています。
これらの他に、まだ大きな柱とはなっていませんが、海外の地方自治の研究も始めています。2019年に1年間アイルランドに在外研究に行っていましたが、現行制度の把握で精一杯で、地域に出ていき実態の把握ができませんでした。その後コロナ禍で渡航ができず頓挫していますが、再開させていきたく思っています。また、フィンランドの地方自治学者とも連絡を取り合っています。そのうち日本とフィンランドの地域づくりについての比較研究も進めていきたく思っています。
私には興味があることが多々あり過ぎて、時間がいくらあっても足りません。自らの要領の悪さを時間でカバーしてきたのですが、そろそろパンクしつつある状況です。
●主な研究業績
  • 藤井誠一郎『住民参加の現場と理論 —鞆の浦、景観の未来—』公人社、2013年。
  • 藤井誠一郎『ごみ収集という仕事 -清掃車に乗って考えた地方自治-』コモンズ、2018年。
  • 焦従勉・藤井誠一郎編著『政策と地域』ミネルヴァ書房、2020年。
  • 藤井誠一郎訳・小舘尚文監訳『アイルランドの地方政府 自治体ガバナンスの基本体系』明石書店、2020年。
  • 山谷清志・藤井誠一郎編著『地域を支えるエッセンシャル・ワーク -保健所・病院・清掃・子育てなどの現場から-』ぎょうせい、2021年。
  • 藤井誠一郎『ごみ収集とまちづくり -清掃の現場から考える地方自治-』朝日新聞出版社、2021年。

学部での教育活動

学部での教育については、「オンブズマンと市民参加」、「地域社会と政治」、「政策過程論」とゼミナールを担当しています。ここではゼミについて紹介します。
3年生ゼミ(コミュニティ・スタディ)では、「地域活性化」をテーマにして、地域自治や多様な主体によるまちづくりについて学んで頂いてます。夏休みには、先述した私の研究フィールドである福山市鞆町でゼミ合宿を行い、まちづくりに尽力されている方々にヒアリング調査を行い、地域への思いを持って活躍されている方々の活動実態を把握して頂いています。そして、民主的なまちづくりには何が必要かを考えて頂いています。また、帰りには香川県高松市の丸亀町商店街を訪問し、シャッター商店街を見事に生まれ変わらせた手法について学んで頂いています。
一方2年生ゼミ(フィールド・スタディ)では、「サスティナブルな公共サービスの提供」をテーマにして、あるべき公共サービスの提供形態について学んで頂いています。具体的には、ごみ収集・清掃サービス、鉄道輸送サービス、水道サービス、について、文献を読んだり、最前線で活躍する人をゲストスピーカーでお招きしてお話を聞かせて頂いたりして、現状を理解した上でディスカッションを行い、今後のあり方についての思考を巡らせてもらっています。
以上に加え、今後は政策提言のコンペティションである、「全国大学政策フォーラム in 登別」への参加も考えています。私のゼミで真剣に勉強していたら、「大学時代に何を学んできましたか?」と問われた際には、自信をもって堂々と説明できると思います。

大学院での研究指導

皆さんが掲げる研究テーマについて、私のこれまでの経験や蓄積から指導をしていきますが、基本的に研究を進める主体は皆さん自身です。私は皆さんの研究が実りあるものとなるよう、サポートする位置づけであると認識しています。
今後私の元に来られる皆さんには、私の師から受け継いだ研究スタンスである、「実践から構築する理論」、「人間味のある視座」を大切にしてもらえるように指導していくつもりです。すなわち、現場に足を運び、現状をしっかりと把握するといった手法にて研究に励んで頂くように指導していきます。よって、皆さんのご研究は、机の上では完結しない手間暇かかる研究になるかと思います。
また、自らのフィールドとしている地域を大切にし、お世話になっている方々には礼儀を尽くすといったフィールドワークの基本的な心構えについても指導していきます。

実践的な取り組み

豊田市の粗大ごみの収集の調査にて。※手前が本人です

ご紹介したとおり、私の研究の1つには清掃行政の研究があります。清掃の現場を参与観察し、そこで生じている問題を把握し、それをどのように解決していけば良いか、それによりどのような世の中が展望できるか、を考えています。 私はこれまで、東京都新宿区、北海道札幌市、東京都北区、神奈川県座間市、愛知県豊田市において清掃車に乗務して実態の把握に努めてきました。実は今でも適宜、清掃車に乗務させて頂いています。重たいごみの積み込みでヘトヘトとなったり、ごみ汁を被ったりしたことは何度もあります。極寒の雪の中の収集や、真夏の炎天下での収集も経験したことがあります。それらを通じ、いかに過酷な現場で技能労務職員の皆さんが働いておられるか、また住民サービスを向上させようと知恵を絞り工夫を施しているか、さらには住民と積極的にコミュニケーションをとり、住民の満足度を向上させようとしているのか、といったことを現場で一緒に作業しながら目に焼き付けてきました。 その結果、新自由主義により民の活用や官から民へと言われていますが、技能労務職員がさらに地域と関わりを持つようになれば、地域の行政サービスの質が向上し、住民満足度も向上していくと確信できるようになりました。また、このような技能労務職員を切り捨てていく行政改革について疑問を持つようになりました。 研究を進めていく際には、時には体当たりで地域に入り込み、何度も足を運び、試行錯誤を重ねて地域の人々の中に溶け込み対象地域を客観的に見ていくことで、一般的に認知されている地域課題に加え、一歩踏み込んだ地域の現状が把握できるようになります。現場にある程度軸足を置くことは非常に時間のかかる方法となりますが、様々な事情がそこから見えてきます。非常にコストはかかりますが、研究の質は向上していくと確信しています。

受験生へのメッセージ

●大学院を受験する方へ
研究は楽しいです。没頭していると時が過ぎるのを忘れてしまいます。基本的に孤独な作業ですが、研究仲間とともに議論しあえる喜びは、趣味に没頭して得られる喜びとは一味も二味も違うものがあります。是非皆さんも実感してほしく思います。解き明かしたい研究テーマを掲げて研究科の門をたたいてみてください。お待ちしています。

●コミュニティ政策学科を受験する方へ
皆さんが日々暮らしている地域を対象に学びを深めていく学科です。様々な大学があり、そこでの特徴ある学びが紹介されていると思いますが、コミュニティ政策学科の学びと比較して頂ければ、ご自身の意思次第ですが、充実した学びになると確信しています。
※インタビュー当時の情報です。

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