区長の「三つの顔」に迫る:吉住健一・新宿区長インタビュー

Webマガジン「コミ政学生が聞く」vol.1

2025/03/25

在学生・卒業生

OVERVIEW

コミュニティ政策学科の学生が、地域の第一線で活躍する方にインタビュー。学科の教育研究内容と連動しながら、政治家、自治体、企業、NPO/NGO…の方に会いに行き、学生目線で質問をして社会へと発信していきます!

2025年2月4日、立教大学コミュニティ政策学科での学びを伝えるインタビュー企画の第1弾として、私たちは吉住健一・新宿区長にインタビューしました。国内有数のビジネス街と歓楽街であり、多様な住民で活気が絶えない新宿区。一方、ふるさと納税による税収源の流出、再開発による高層マンション建設に伴う新たな住民自治の模索といった、多くの政策課題も存在します。

今回、吉住区長にインタビューするにあたり、コミュニティ政策を学ぶ私たちは「区長」「特別区長会の会長」そして「東京二十三区清掃一部事務組合(以下、一組)の管理者」、この三つの顔にフォーカスを当てました。現場主義を貫く吉住区長の「三つの顔」を通じて、これからのコミュニティ政策を考えるヒントを展望します。

新宿区長:区議、都議を経て3期目。「実情を知らずに現場を語るなかれ」がモットー

—今回は「区長」「特別区長会の会長」そして「一組の管理者」としての吉住氏に着目してお話をうかがいます。その前段として、ぜひ政治の世界に入るきっかけについてお尋ねします。
吉住区長は高校時代から、官僚でも政治家でもなく、政治家の秘書を志望し、「歴史に残るような人の下で働きたい」という夢を抱いていたということですが、その夢に至る経緯をお聞かせください。

読書が好きな子どもで、特に歴史に関する本が好きでした。本を読み進めていくうちに、「歴史上の偉人たちは人生の分岐点においてどのような状況に置かれ、どのような考えで、自分が進む道を決めたのか」と興味を持つようになりました。そんな人物の近くで働きたいと志したのが、政治家の秘書という仕事です。しかし、昔は政治的なツテが何もなかったので、「弁論部や雄弁部があるかどうか」に着目して大学進学先を選ぶことからでした。
—吉住区長は区議2期、都議2期を経て2014年に区長に就任し、現在3期目です。この10年の中で、ご自身が大切にしている行動指針はありますか。

実情を知らずに現場を語ることはできない、ということでしょうか。重要となるのは、「机上のデータ分析」と「現場の把握」を往復すること。現実に起きていることを直視しながら課題解決に必要な手段を探求することが求められていると考えています。
そんな思いから、出張所や地域センター、生涯学習施設など、区の現場全てに足を運びました。これには3年ほどかかりました。基礎的自治体は、常に生身の人間と接する行政機関の長ですから、どうしても必要だと考えた上でのアクションでした。

—現場を重視する考え方はどのように培われたのですか。

キャリアのスタートで、与謝野馨代議士(当時。2017年逝去)の秘書として選挙区内を巡ったことでしょうか。「与謝野さんという政治家が政治活動や政策立案に専念できるようにするのが自分の仕事」と考えた上でしたが、当時の私には何のツテもスキルもありませんでした。とにかく地元の人たちの懐に飛び込んでいくことから始めました。

—吉住区長はXやinstagramといったSNSでも発信に努めています。区内にあるさまざまな「現場」を感じられる投稿が目立ちますが、その中でも新宿二丁目での美化活動について「二丁目の奇跡」という表現で紹介していたことが印象的でした。この「二丁目の奇跡」という言葉に込めた思いをお聞かせください。

「二丁目の奇跡」という表現は、私が個人的に呼ばせていただいています。新宿二丁目一帯には個人経営の飲食店が多く、正月明けのごみ量が増える時期に至っては、分別されていないごみが身長くらいの高さにまで積みあがるような地域でした。そんな無政府状態のような状況から、地元住民と商店主の方々をはじめとした自治活動によって、秩序を回復していきました。そんな新宿二丁目の住民と商店主に最大限の敬意を示したいと思って考えた言葉です。
区内にはこの他にも「勤め先は新宿区、住まいは別」というエリアを多く抱えています。常住人口と昼間人口、つまり新宿区民と、新宿区を勤務先・通学先としている方々の双方がいかに地域で協働できるかという点は長年の課題でもあります。新宿二丁目の美化活動を発端とした動きは、まさにこの新宿区の課題に重なる部分があるのです。
—これまでのお話をうかがっていると、率直に、吉住区長は非常に考えつくされて行動しているのだなという印象を受けました。

そうではないこともありますよ。私は区役所の近くで展示販売されている熱帯魚を見るのが束の間の楽しみだったのですが、たまたま見かけたマリモが気に入ってしまい、思わず購入してしまいました。これは明らかに衝動買いでした。

特別区の区長会会長:ふるさと納税は「抜本的な改革を」

—続いて、吉住区長が区長会の会長である、という視点からになります。区長会自体は任意団体ではありますが、その人口を合わせると900万人超という大規模になります。そこで、特に2つの観点で質問します。
まず、都区財政調整制度についてです。2020(令和2)年の協議で区の配分割合を特例的に55.1%に増加し、2022年度に改めて協議することになりました。しかし、話がまとまらず、都区のプロジェクトチームの検討などを経て、2025年2月に56%への引き上げで合意しました。これらの経過を踏まえ、都区財政調整の議論はどのようにあるべきだと考えますか。

本来は、都と特別区の相互の財政状況に鑑みて議論していくべき事柄です。ただし、双方の行政組織がそれぞれの政策を実現することを追求すると財源は際限なく必要になるものであります。都区間の交渉はロジックで語り、相互の主張をぶつけ合っているので膠着状態になりがちですが、そもそもは「大枠での役割分担に基づいて配分する」を理想の姿としておくべきではあります。

—次に、ふるさと納税についてです。区長会はその問題点を訴え続け、2024年10月に公表した「不合理な税制改正等に対する特別区の主張(令和6年度版)」でも、ふるさと納税について廃止を含めた抜本的な見直しを行うべきだと主張しています。それでは、ふるさと納税は具体的にどのように見直される、もしくは廃止されるべきと考えていますか。

前提として、本来、ふるさと納税は国の制度ですが、国の所得税から控除すべきところをなぜか居住地の自治体の住民税から控除される制度になっています。何度も言いますがこれは本来国の税制なので国が負担すべきだと私は考えています。そして「返礼品ありきのふるさと納税制度」自体が不合理と考えていますので、対案という論理ではなく、廃止もしくは抜本的な制度改正を要望しています。制度の歪みに対しては、「控除額の制限」「減収分の補填と公平化」「ワンストップ特例の見直し」「返礼品等の経費の比率引き下げ」等を是正すべきである、と国に要請しています。
—もし、抜本的改革か廃止、二つに一つであるなら、どちらが選択肢になるのでしょうか。

抜本的改革ですね。もちろん、日本における寄付文化を定着させるための一つの手段として、ふるさと納税を利用すればよいとは考えていますので、廃止よりも抜本的な改革が必要だというのが私の考えです。
現状の「地方交付税で75%を補填する」というルールについて、全23区が不交付団体に指定されてしまい、全く補填されない形になっています。
ふるさと納税で見落とされがちなのは、住民が「ふるさと納税した」と思っている金額から、物品代や手数料が消えてしまうことです。本来、税金となるはずの財源が、50%近くそれらで消滅してしまう。これはいびつな制度だと考えています。

東京二十三区清掃一部事務組合の管理者:2000年の区移管を経て

—首長は自らの自治体にとどまらず、広域行政にも関わることがある存在です。吉住区長は2023年から東京23区の可燃ごみの中間処理などを担う一組の管理者を務めています。先に挙げた特別区の区長会では、2024年12月の総会で、清掃工場の縮小や廃止の方針を決めていますが、清掃工場の縮小や廃止の妥当性についてどのようにお考えでしょうか。

清掃工場の廃止・縮小は、清掃工場所在区の負担軽減の観点で合意したものであり、23区の共同処理の考え方に沿ったものであると考えています。新宿区に清掃工場がないように、清掃工場所在区とそうでない区の負担は異なるものであり、工場の稼働状況によっても変化があります。それらを踏まえて、分担金の配分を行っています。
—東京の清掃行政(廃棄物の収集・処理・処分)のうち、一般廃棄物(主に家庭ごみや事業系ごみの一部)の収集・運搬を23区、中間処理を一部事務組合が担い、最終処分が東京都に委託される形となっています。23区内で引っ越しをしただけでも分別方法が変わってしまうのは面倒だ、というのが率直な区民の意見です。「東京23区で一体的に収集・運搬、中間処理、最終処分を担う」というあり方は、難しいのでしょうか。

かつて、東京都清掃局が東京都として取り組んでいた時の形態を復活させるということですね。しかし、地方分権改革の一環として清掃事業を2000年に特別区に移管した経緯があります。各区の特性に応じてルールが定められています。住民にも移り変わりがあり、ニーズにも変化があります。さらに職員の給与体系も段階的に統一していった経緯があるため、これを急に戻すのは難しいでしょう。
もちろん、廃棄物の再資源化やごみ減量は、23区共通の課題として取り組む必要がある課題です。例えばごみ収集有料化が議論される時は、統一のルールを考えなければならないものであります。それらを含めて、実施可能なのかどうかが議論されるべきでしょう。

コミュニティ政策とは:「自らのまちを自ら改善」。そんなゆるやかな連携を支えたい

—吉住区長の「三つの顔」に沿ってお話をうかがってきましたが、それぞれの「顔」で重なる現場と、そうではないところもあるかと思います。そんな状況下で意識をしていることはありますか。

あえて挙げるとすれば、新宿区の利益だけを考えず、全体の意見として国や東京都に主張するよう意識しているということでしょうか。各区の状況が異なる中、どのような合意形成ができるかを考えています。

—最後に、吉住区長が考える「コミュニティ政策」を教えてください。

町会や自治会という伝統的な組織があることを前提としていますが、そのような旧来の組織には入りたがらない方々も一定数いらっしゃいます。一気に何百世帯といった高層マンションの建設や、外国にルーツを持つ住民の増加も、これまでの地域コミュニティが想定していなかった状況ではないでしょうか。
そんな中でも、各地域が「来るもの拒まず」のスタンスが取りやすいようゆるやかな連携を行っていくのが、区が目指している方向性のひとつです。
加えて、新宿区はいわゆる勤め人が多い街でもあります。自分の住んでいる街よりも、勤めている街のほうがつながりが濃くなり、緩やかなつながりを持ってもらいやすいという考えもあります。このように、自らのまちを自ら改善していこうと考える区民と、そこに近い方々の存在はかけがえのないものではないでしょうか。
そんな思いで検討してきたことが一つの形となったのが、まもなくこの4月に施行となる「新宿区未来につなぐ町会・自治会ささえあい条例」です。
新型コロナ禍を経て、地域コミュニティが抱える困難さも明らかになった今、「居住地であるかどうか」よりも、その地域につながりを感じるかが、重要になってくるのではないでしょうか。
地域の課題に対して皆で考え、行動し、解決していく営みを通して、ここに住み続けて良かった、ここで働き、活動して良かったと思える。そんな地域コミュニティを支えることが、私の考える地域コミュニティ政策です。
Memo

取材後記

小西さん
私がこのインタビューでひそかに目標にしていたのは「政治家の等身大の人間という要素を世の中に知らしめる」ということです。日本人は政治家を「お上」と呼び、どうしても自分の世界とは切り離すことが少なくありません。特に若者の選挙離れは、政治家がとっつきにくい存在だという認識があるからではないでしょうか。吉住区長の言葉からもわかるように、政治家は上位の存在ではなく、私たちと同じ一人の人間であり、様々なことに悩み、苦しんできた一人の人間です。そのことがわかるような質問を交えました。
私は、「若者と政治家」もとい「国民と政治家」の壁を壊すことこそが、日本国民の政治離れを是正する一つのカギではないかと考えています。これからのインタビュー企画が、国民と政治家との距離が縮まる第一歩になれば、これ以上に幸せなことはありません。
中川さん
私は、現在の清掃行政の在り方に対する疑問を感じ、新宿区の清掃事務所でフィールドワークを重ねている学生です。吉住区長の言葉の端々から、現場に出ていくことで全体像の把握をしたい、という思いを感じました。住民の入れ替わりが激しい新宿区という非常に混沌としている自治体を運営するためには、吉住区長のようなどんと構えたような姿勢が欠かせないと感じました。
ごみ収集の現場に焦点を当てると、フィールドワークでは23区でルールが統一されていない不便さを感じてきました。今回のインタビューでは、共同処理の歴史と現状を通じた課題の困難さが垣間見えました。今後、ごみの有料化が視野に入ると統一ルールが必要になるため、住民の最も近くで働いている23区の現業職の作業員たちと連携を図ることで、その実現可能性についても向き合う必要があるのではないでしょうか。
伊佐さん
私はコミュニティ政策学科の学生として、これまでに国会議員との対談を重ねてきた経験を土台に、今回のインタビューに挑みました。吉住区長との対話では、その物腰の柔らかさや温かな人柄に触れることで、政治家もまた私たちと同じ悩みや葛藤を抱える一人の人間であると実感しました。さらに、さまざまな政治家との対談経験から、政治家を一括りに評価するのではなく、その人自身の資質や背景に目を向けることが重要だと痛感しました。
今回の取材を通して、誠実な姿勢で現場に臨む区長の姿に多方面で大きな学びを得るとともに、政治がより身近で温かいものに変わる可能性を感じました。そして、こうしたアプローチが、政治家離れの現状を打破し、若者をはじめとする国民全体が政治に関心を持つ一助となることを強く願っています。

写真は左から、小西さん、吉住区長、中川さん、伊佐さん

【取材】
立教大学コミュニティ福祉学部コミュニティ政策学科
伊佐真帆さん、小西啓太さん、中川暦さん

【撮影・編集】
立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科
成田有佳さん
※インタビュー当時の情報です。

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