物事に対し疑問をもち、それを育み、考え抜く学問の楽しさを共有していきましょう

福祉学科 牧田俊樹助教(障害学、ひきこもり研究)

2026/06/30

教員

研究内容

わたしの研究分野の障害学は、障害が関わる事象に対して、あらゆる分野からのアプローチが可能であるところに魅力があると考えます。わたしはこの障害学で、社会福祉学領域において近年あまり行われることがなくなってきた理論研究を行っています。
これまでの研究では、神話学、民俗学、文化人類学、哲学、社会学などの知見を用い、障害について様々に考察をしてきました。例えば、障害とは何かを知りたいという思いから、日本神話のヒルコにまでさかのぼり、ヒルコとは一体どのような存在で、どのように当時の社会から認識されていたのかを探ることからはじめ、大祓詞(おおはらえのことば)に登場する白人(しらひと)・胡久美(こくみ)とは、どのような障害であり、それはなぜ罪と関連付けられたのか、そしてしばしば障害者に付着させれたケガレという概念は、どのようなものであり、どのような理由で障害と結びつくに至ったかというような幅広い考察です。
また最近では、障害とは何かという問いに対して、唯一の正しい答えを提示することは困難であると考え、障害とは何かという問いそのものを問い直す研究をしてきました。これまで障害学では、障害とは何かを探究し、研究者はそれに対しさまざまな答えを提示してきました。しかし、研究者間でその答えをめぐって対立も生じています。対立の要因の一つとしては、障害というものの真理を捉えたいという思いから、自らが導き出した答えに固執してしまうことが考えられます。しかしながら、障害とは多義的な意味をもっています。つまり、障害とは何かという問いに唯一普遍的な答えを提示することは困難なのです。そこでそのような普遍的な答えを導き出す問いである、「〇〇とは何か」という問い、ここでは「障害とは何かという問い」は、別な問いに変換する必要があるのではないかと考えたのです。転換後の問いは、「障害という言葉をどのように使用していくか」です。障害とは何かという問いは、言語の世界に生きているわたしたちにとっては、「障害という言葉は何を意味するのか」という問いに他なりません。これを踏まえて、今後わたしたちが模索すべきは、障害という言葉をいかに障害当事者にとって有用に使用していくかだと思うのです。
障害学では、社会モデルという障害は社会によって作られたものであるというモデルが有名です。社会モデルは障害を個人の責任に帰する個人モデル(医学モデル)を批判します。しかし一方で社会モデルも社会の帰責性を前面に押し出すため、障害当事者の痛みや疲労、個人的であり何ものにも代え難い経験を軽視しているという批判がなされています。それを乗り越えようと社会モデルはより精緻なモデルへと変化をし続けています。しかしそこには限界があるという研究者もいます。そのような研究者は批判的障害学(CDS)等の新たな理論を展開します。しかし先ほど述べた障害という言葉の使用という考えは、社会モデルでもなく、批判的障害学ともいいにくい新たなモデルです。それは「有用性モデル」といい、障害という言葉を、障害当事者の「有用性」に鑑みて、目的と状況に合わせて、複数使用していくというものです。
これを詳細に説明した著書『「障害とは何か」という問いを問い直す—「事実」から「有用性」に基づいた障害定義の戦略的・実践的使用へ』が、大変光栄なことに日本社会福祉学会から学術賞を授与されました。この新しい有用性モデルが実際に有用なのかが今後問われていくことになることを心より願っています。

学部での教育活動

学部では主にソーシャルワーク実習に関する授業を担当しています。ソーシャルワークとは一体何でしょうか。少なくない学生がこの問いに直面するのではないでしょうか。しかしソーシャルワークとは何であるかはその言葉を用いる人によって異なり、これだという唯一の答えを提示することは困難です。だからこそ授業を通して、各々が自らのソーシャルワークについて考察していくことが求められると考えます。
わたしの授業では、創造的な対話から、ソーシャルワークについて考察を深めることを目指しています。しかしそれはあらかじめ決まったソーシャルワークの技法を教科書的に学ぶことを軽視することではありません。思考を展開するには、その素材となる知識が必要となるからです。例えば積み木があったとして、さまざま形のものが多数なければ、誰もつくったことのない新しいもの、見る人が面白いと思うものを作ることはできません。この一つ一つの積み木が知識に当たり、そこから触発された思考を通して、はじめて創造的なものを生じさせることができるのです。知識という素材を、思考を通して自由に使い、新しく興味深く、そして多くの人にとって役立つソーシャルワークを創造する。知識と思考は複雑に絡み合っていて、そのどちらかが欠けてもクリエイティブなものは生じません。これは、ソーシャルワークにおいてマクロな社会的視点とミクロな個人的視点の双方が分かちがたく複雑に絡み合い、どちらが欠けてもクリエイティブな世界を生じさせることができないのと同様です。ミクロな人を通して、その人がどのようなニーズをもっていて、それを満たすためには何が必要かを地域というメゾな視点、社会というマクロな視点から考察し、循環的にメゾ・マクロなものがミクロな個人にどのように作用していくのかを考察する。このようなダイナミックで変化に富んだソーシャルワーク実践を可能とするような授業を展開することが、わたしが目指すソーシャルワーク教育のあり方です。
大学教育は、教員だけが一方的に自説を説くだけでは成立しません。学生の皆さんが能動的に教員と相互作用することによって、これまで見えなかった新たなものが生じ、それが社会に活かされていきます。ですので、ぜひ大学・大学教員という資源を能動的に活用しください。そして現在さまざまな危機に瀕している社会に対して、何らかの行動を起こし、多くの人の生きづらさが少しでも解消される社会を創造してください。わたしの教育活動は、そういった社会を見据えて行っていると思っていただければ幸いです。
また、ソーシャルワークは実践を重んじます。しかし、その実践を適切に行うには、さまざまな理論を学ばなければなりません。理論なき実践はときに対象とする個人、その個人が生活する社会にあまり有益ではない結果をもたらしかねません。ソーシャルワークを理論的に学ぶということは、多くの人の生きづらさを適切に解消する可能性を広げることです。ですので大学という場で様々なことに興味をもち、多くの分野から学び、思い切り考え抜き、自らの、そして社会の可能性を広げてください。その能動的な学びを、わたしは少しだけ手伝うことができるのではないかと考えています。

受験生へのメッセージ

まずは、合格するために、全力で求められている勉強をしてください。わたしの考えでは、その勉強はこれからの大学生活、そしてその後の人生において糧になります。無駄なことは何一つないとはいいません。身に付けた知識は忘れ、使わなくなることは大いにあり得ることでしょう。しかし、それを無駄と感じるのは、知識という点にだけ着目するからだと考えます。受験の中で自らの身体と複雑に絡み合って得られた何らかの言語化しにくいものは着実に後に得るものとつながっていきます。では何らかの言語化しにくいものとは何でしょうか。なぜ言語化できないのでしょうか。それは集中する力、耐える力、想像する力、対話する力など、多くの(力だけではなく)要素が分割できない形で身体と絡まり、身体とともに多様な状況で作動するからです。つまりあまりにも複雑で明確に区分できないさまざまな要素が身体にまとわりつくがゆえに、明確な言語化からもれてしまうのです。これは、合理的で自立した個人が効率よく身に付けた知識だけに着目することで、その外部で身体と共に作動しているものに目が向かなくなることを意味しています。近代的で自立した他者との相互作用を前提としない枠組みだけで捉えると、受験勉強はいっときだけの今後役立たないものとして見えてしまうでしょう。しかし、これは大学で学ぶことになると思いますが、別な枠組みや視点から捉えると、受験勉強は決して無駄なものとして認識されることはないと考えます。なので、今は合格するためにやるべきことをやり、合格したあかつきには、今いったようなことを含めてさまざまなことを探究してください。
 大学生活は、人によって大きく異なります。就職のための通過点としてなんとなく過ごすことも、能動的にさまざまな資源を利用して過ごすこともできるでしょう。どの選択が正しいかはわかりません。というよりは、どの選択が正しいかを決めることにはあまり意味がありません。そしてその選択自体も環境との相互作用によって偶然的に決まることも多いでしょう。ですので、大学で悩みながらさまざまな選択をする過程を楽しんでください。わたしは教員としてその悩みにときにアドバイスをしたり、より悩みを深めたり、またこちらがかえって考えさせられたりするでしょう。大学には様々なルールがあります。そのルールの中で、自由に創造的に悩んでください。ときにそれはとても苦しいことかもしれないし、これまでに経験したことのないような楽しいことかもしれません。大学での時間は、他のどの時間とも違います。その違いを確かめるためにも、ぜひ大学に入学してみてください。これまでわたしがいってきたことはあくまでもわたしの一見解に過ぎません。なので、自分でそこに足を踏み入れ、実際どのような時間や空間を体験ができるのかを楽しみに今は受験勉強を精一杯頑張ってください。
※インタビュー当時の情報です。

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