日常と世界をつなぎ、一人ひとりの尊厳から平和を考えよう

コミュニティ政策学科 影山優華助教(ジェンダーと平和、フェミニスト平和運動)

2026/07/13

教員

研究内容

IWNAMフィリピン会議(2023年)

私がジェンダー研究・平和研究の道に進むことになったのは、大学時代に参加した国際女性平和運動との出会いがきっかけでした。のちに師事することになる大学の先生が携わっていた、「軍事主義を許さない国際女性ネットワーク(IWNAM)」の国際会議がプエルトリコで開催され、私も参加する機会をいただきました。この会議には、沖縄、韓国、フィリピン、グアム、ハワイ、日本本土、アメリカ本土など、米軍基地がある地域で、軍隊による性暴力や環境汚染などの問題に取り組んできた女性活動家・研究者たちが参加していました。
彼女たちは、それぞれの地域が抱える問題を共有し、「軍事主義に基づく安全保障はいったい誰の安全を守るのか」を問うていました。私はここで初めて、「軍事主義」という考え方に出会いました。軍事主義とは、武力や軍事力による問題解決を重視し、それを社会全体の価値観や仕組みとして優先する考え方です。現場で活動する女性たちは、このような軍事主義の影響は武力紛争の場面だけでなく、人々の日々の暮らしにも及び、とりわけ女性や子どもなど、社会的に弱い立場に置かれやすい人々の生活に深く表れることを、自らの経験を通して訴えていました。

WILPFガーナ会議(2018年)

こうした女性たちとの出会いを通して、平和とは単に戦争がない状態ではなく、一人ひとりの命や尊厳が大切にされ、暴力や差別のない社会を築く営みであることを学びました。また、運動の現場に足を運び、運動とともに研究を進めるフェミニスト平和研究者の姿にも大きな影響を受けました。「知識」は研究者によって生み出されるというイメージがあるかもしれません。しかし、フェミニスト平和研究では、女性たちの日常の経験や実践、そこから生まれる知識や分析を大切にします。そうした現場から生まれる知は、社会の見えにくい問題を明らかにし、新たな平和のあり方を考えるための重要な手がかりになります。
例えば、フェミニスト平和研究は、女性に対する日常的な暴力と戦争や軍事主義とのつながりを明らかにしてきました。暴力や不平等は戦場だけで起きるものではなく、日常における「男性らしさ」や「女性らしさ」の規範(ジェンダー規範)、そして支配する側とされる側を生み出す権力関係とも深く結びついていることが示されています。また、軍事主義は、力や競争、武力による問題解決を重視する価値観を通して、ジェンダー関係を強化する一方で、既存のジェンダー関係もまた軍事主義を支えるという相互作用があります。(リアドン1988)フェミニスト平和研究は、このような軍事主義とジェンダー関係の結びつき、男性中心的あるいは軍事主義的な社会の仕組みを分析し、より平等で、誰もが尊重され、安心して暮らせる社会のあり方を探究してきました。

GPPAC-NEAモンゴル会議(2023年)

現在の国際社会では、紛争や貧困、格差、パンデミック、気候変動など、人々の命や暮らしを脅かす課題が複雑化しています。一方で、安全保障は国家や軍事を中心に語られることが少なくありません。しかし、人々の尊厳やウェルビーイングを守るという視点に立てば、「安全保障」の名の下で進められる軍事化が、新たな暴力や不平等を生み出し、人々の暮らしや尊厳を脅かしている現実にも目を向ける必要があります。「誰かの犠牲の上に成り立つ安全保障ではなく、人々の尊厳やウェルビーイングを中心に据えた安全保障はどのように実現できるか?」それが私の研究の中心的な問いです。
私は、この問いを明らかにするために、フェミニスト平和運動に参与しながら研究を行っています。特に、冒頭で紹介したIWNAMの設立にも関わった、米国サンフランシスコ・ベイエリアを拠点とするフェミニスト・グループ「真の安全保障を求める女性たち(WGS)」の活動実践に着目しています。女性たちの運動といっても、その経験や置かれている状況は決して一様ではありません。国や地域、人種、階級、ジェンダーなど、それぞれ異なる社会的背景のもとで経験する暴力や差別、また社会の中で持つ立場や特権も異なります。このような多様な立場の違いを認識しながら、女性たちが運動の中でどのような実践を積み重ね、力関係や不平等を再生産しない連帯を築いているのかを手がかりに、国境を越えたフェミニスト平和運動の意義や可能性について研究しています。

学部での教育内容

学部では、「基礎演習」や「コミュニティ学入門演習」を担当しています。ゼミでは「ジェンダーと平和」をテーマに、文献講読やディスカッション、フィールドワークを通して、ジェンダーの視点から社会問題の背景にある仕組みや構造について学び、世界で起きている出来事と身近な日常とのつながりを理解することを大切にしています。
教育で大切にしているのは、学生一人ひとりが自ら問いを立て、自分自身や地域社会とのつながりの中で社会課題を考えることです。自分自身の経験や疑問を出発点に、多様な視点から物事を捉え、自分や社会の「当たり前」を問い直す姿勢を育んでほしいと考えています。

大学院での研究指導

大学院では、修士課程1年次の必修科目「研究基礎」を担当しています。学部から進学した学生だけでなく、実務経験をもつ社会人学生も多く学んでいます。授業では、研究課題の明確化や研究方法論、調査手法など、研究を遂行するために必要な基礎的な研究能力を養うとともに、多様な研究テーマをもつ学生同士が学び合い、それぞれの研究を深められる環境づくりを心がけています。

実践的な取り組み

研究と並行して、国内外の市民社会や女性平和運動にも継続的に参加し、現場での対話や実践から得た経験を研究や教育へ生かすことを大切にしています。主に、以下の3つの国際的な市民社会ネットワークに参加しています。

① 婦人国際平和自由連盟(WILPF)
WILPFは、1915年に設立された世界最古の女性平和団体です。2015年には、創設100周年を迎えたオランダ・ハーグでの国際会議に参加し、2018年にはガーナで開催された国際総会にも参加しました。また、コロナ禍には、「Breaking Through the Addiction to Weapons」をテーマとした国際ウェビナーに参加し、オーストラリア、ニュージーランド、日本(京都)、ドイツ、イタリアのメンバーとともに、それぞれの地域における軍事化の課題について調査・報告を行いました。

② 武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ東北アジア(GPPAC Northeast Asia)
GPPAC東北アジアは、日本、韓国、中国、モンゴルなど東北アジアの市民社会メンバーとともに、朝鮮半島の和平や核廃絶をテーマに対話を重ねています。私は、2023年、2024年2025年にウランバートルで開催された会議に参加しました。地域の分断や軍事化、国家間の緊張関係に対して、(国の代表としてではなく、)それぞれの地域・都市で活動する市民の立場から、対話による信頼醸成や政策提言に取り組んでいます。
③ 軍事主義を許さない国際女性ネットワーク(IWNAM)
近年では、2023年のフィリピン、2025年の韓国で開催された国際会議に参加しました。会議では、各地域で活動する女性たちが軍事化の影響について問題を共有し、今後の共同した取り組みについて話し合われました。また、開催地では基地周辺地域のフィールドワークや女性団体との交流を通して、地域が抱える課題や、実践について学んでいます。

さらに、毎月開催されるオンライン会議にも継続的に参加しています。そこでは各地域の状況や活動を共有するとともに、互いをケアし、励まし合いながらネットワークが維持されています。このような日常的な関係づくりそのものが、国境を越えた連帯を支える重要な実践となっています。
このような運動の場での経験を通して、国家の枠組みを超えた市民社会の連帯や、地域に根ざした女性たちの日々の実践が、平和を築くうえで重要な役割を果たしていることを実感しています。今後も現場から学ぶ姿勢を大切にしながら、誰もが尊厳をもって安心して生きられる社会に少しでも寄与できるよう、研究と教育に取り組んでいきたいと考えています。

受験生へのメッセージ

WILPF100周年ハーグ会議(2015年)

私たちの社会には数多くの課題があります。それらに唯一の正解はなく、一人の力で解決できるものでもありません。だからこそ、多様な立場や経験、専門性をもつ人々が互いに学び合い、協力していくことが求められます。
大学は、さまざまな地域や文化、経験をもつ人々と出会い、自分の世界を広げることができる場所です。自分がどのように社会に貢献・活躍できるのかを探究する機会も得られるでしょう。また、生涯にわたって支え合える仲間と出会えることも、大学で学ぶ大きな魅力の一つだと思います。
受験に向けて勉強を続ける中では、不安や焦りを感じることもあると思います。その中で努力を重ねている皆さんを心から応援しています。学ぶ機会や勉強に取り組める時間や環境があることは、決して当たり前ではありません。その機会を大切に、最後まで挑戦してください。皆さんと大学でお会いできることを楽しみにしています。

参考文献 
ベティ・リアドン(山下史訳)[1988]『性差別主義と戦争システム』勁草書房。
※インタビュー当時の情報です。

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