社会が目を背けている場所にこそ、ほんとうのことがある

福祉学科 山田壮志郎教授(社会保障、貧困、公的扶助)

2026/07/21

教員

研究内容

私が貧困や生活保護の問題について研究するようになったきっかけは、大学3年生の時に社会保障法の先生のゼミに所属したことです。足を怪我して仕事を失い野宿生活をしていた男性が、生活保護を申請したものの「仕事を探せば見つかるはずだ」と却下されたことを不服として争った裁判について学びました。社会福祉学部で福祉の勉強をしていた私は、生活保護制度は憲法25条が定める生存権保障の理念を具体化した“最後のセーフティネット”であると教わってきましたが、その網からも零れ落ちている人がいることに驚きました。
大学院に進学してからは、ホームレス支援団体で生活相談や生活保護の申請同行などの活動に携わりながら研究活動に取り組みました。本来、生活保護は、最低限度の生活水準を下回っていれば誰もが利用できるはずですが、ホームレス状態にある人にはなかなか適用されていませんでした。生活保護が適用されるとしても、集団生活を強いられる施設や劣悪な住環境の宿泊所に入所しなければならず、健康で文化的な生活を営めているとは言えませんでした。こうした制限的な運用を改め、最後のセーフティネットとしての機能を果たしうる生活保護のあり方を考えてきました。
私の学生時代に比べれば、ホームレス状態にある人への生活保護の運用はいくぶん改善され、生活保護を利用して野宿からアパート生活に移行する人たちも増えてきました。しかし、アパート生活への移行はホームレス支援のゴールであるとは限りません。地域の中で孤立していたり、家族や友人との関係も途絶えてしまっている人たちは、困りごとを抱えても誰にも相談することができず、一人で悩みを抱え、時にはアパートから突然姿を消してしまうこともあります。
しかも、生活保護受給者への世間の風当たりは、決して優しいものではありません。2012年に、人気タレントの母親が生活保護を受給していることを週刊誌が報道し、タレントが社会から強い批判を浴びるという出来事がありました。この一件をきっかけに、生活保護受給者は甘えている、不正受給者が多い、ギャンブルやお酒に生活保護費を使っている…など、生活保護やその受給者に対して攻撃的な報道が過熱しました。その影響から、2013年には生活保護受給者に支払われる保護費が減額されたり、申請者の親族に援助を強く求めるなどの法改正が行われたりしました。現在も、生活保護に対してネガティブなイメージをもっている人は少なくないかもしれません。
繰り返しになりますが、生活保護は最後のセーフティネットです。不安定で不確実な社会を生きている私たちが、何かのきっかけで生活に困窮することがあったとしても、最後は生活保護が最低限度の生活を保障してくれるので、私たちは安心して人生を歩むことができるはずです。しかし、生活保護に対する負のイメージが広がると、生活保護を受けることは恥ずかしいこと/みっともないことであるという意識が強まり、最後のセーフティネットとしての役割がますます弱められてしまうように思います。
そうした問題意識から、私は現在、生活保護に対する人々の意識について研究しています。なぜ生活保護に負のイメージが付与されるのか、どんな人が生活保護に対して厳しい考えをもつのか、どうすれば生活保護に対する寛容な態度が生まれるのかといった課題に取り組んでいます。道のりは険しそうですが、生活保護へのマイナスイメージが払しょくされ、生活に困った時に誰もが恥ずかしい思いをせずに生活保護を利用することができるようになることを願っています。

学部での教育活動

学部では社会保障論の講義を担当しています。年金や医療保険などの社会保険制度を中心に、社会保障制度の仕組みや考え方について学ぶ科目です。社会保障制度の仕組みはハッキリ言って複雑なので、学生にとっては、あまり勉強したくない、目を背けたくなるような内容かもしれません。しかし、私たちは誰しも自分の力だけで生きることはできません。社会保障制度は、病気や老齢、失業など、生活を脅かすリスクが現実になった時にでも安心して人生を送っていくために不可欠の制度です。少しでも分かりやすく伝えることで、学生が社会保障を自分事として考えてもらえるようになることを心がけています。
 ゼミでは、「貧困問題の視点から社会保障のあり方を考える」をテーマにしています。社会保障は、突き詰めていえば貧困問題を解消することを目的に用意されています。テキスト学習やフィールドワークを通じて、日本の貧困の現状を学ぶとともに、貧困を解消するための制度として社会保障が機能しているかどうかを学生とともに考えています。

大学院での研究指導

大学院科目としては「社会保障特論」を担当します。社会保障という概念の射程範囲は広く、福祉と呼ばれる制度やサービスはほとんど社会保障の範囲に含まれます。したがって、受講生それぞれが研究テーマとする領域を制度・政策的な視点から考えて欲しいと思っています。特に、大学院生は研究の初学者ですので、各自が学位論文の執筆に向けて研究を進めていくための技法についても、私自身の研究を紹介したり先行研究を輪読したりしながら、ともに考えたいと思います。
本学では修士・博士の論文指導の経験はまだありませんが、これまでは、学部ゼミの出身者だけでなく、生活保護のケースワーカーや生活困窮者支援に携わる実践家などの論文指導も担当してきました。生活困窮者支援の領域は、他の領域に比べて現場の実践者の研究活動が活発ではないかもしれません。現場で活躍する多くの方が、実践の悩みを研究というアプローチで解決していく手助けができることを願っています。

受験生へのメッセージ

私がこれまでの研究や実践で関わってきたホームレス状態にある人々や生活保護を利用している人々は、世間から顧みられなかったり、むしろ時には爪弾きにされたりすることもあります。そうした人々が「生きててよかった」と感じることができるようにしたい。そのためには、社会から見放されることがないよう、誰かが彼ら/彼女らに目を向け、思いを寄せなければいけない。そんな気持ちで関わり続けてきたような気がします。
このことは、貧困や生活保護だけでなく、社会福祉全体に言えることかもしれません。力の強い人や声の大きい人が目立ちやすい世の中を何気なく生きていたのでは見過ごしてしまいそうな世界にこそ、敢えて光を当てていく。そんな社会福祉の魅力をともに体験しましょう。
※インタビュー当時の情報です。

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